復活した「ネット中立性」の規則は、本当の意味で定着しうるのか?

トランプ政権時代に撤廃された「インターネット中立性」の規則が、このほど復活することが決まった。しかし、通信環境が大きく変わり、選挙の年でもあるなかで定着するのか、それとも規制をめぐる永遠の争いの一部なのかを断定することは難しそうだ。
Jessica Rosenworcel chair of the Federal Communications Commission
米連邦通信委員会(FCC)委員長のジェシカ・ローゼンウォーセル。Photograph: Kevin Dietsch/Getty Images

米国内のブロードバンド業界の活動を監視・規制する権限について米連邦通信委員会(FCC)が採決した結果、これを行使すると改めて表明した。採決は3対2で賛成が上回り、これによってFCCはトランプ前政権の集中的な規制解除の真っただ中に撤廃された「インターネット中立性」の規定を復活させたことになる。

「ブロードバンドはいまや不可欠のサービスになっています」と、FCC委員長のジェシカ・ローゼンウォーセルは4月25日(米国時間)に所見表明の文書で説明している。「現代の生活のあらゆる面でわたしたちが頼りにしている不可欠のサービスには、基本的な監視体制が備わっています」

FCCが25日に可決した規定によって、米国のブロードバンドサービスは電気通信法の「タイトルII」において「コモンキャリア」に改めて分類されることになる。これによりブロードバンドは、電話回線やケーブルテレビと同じように、公共事業としての監視体制に組み込まれるわけだ。

FCCはこの分類によって、インターネットサービスプロバイダー(ISP)が合法的なコンテンツを遮断したり、通信速度を抑制したりする行為を禁止できる。また、オンラインサービスが対価を支払って、自社のコンテンツをより速い配信速度でISPに優先的に扱わせるようなことも阻止できる。しかし、特に選挙の年においてネット中立性が定着するのか、それともFCCの採決が規制をめぐる永遠の争いのなかの「変曲点」にすぎないのか、断定することは難しい。

「ネット中立性の規定は、インターネットのトラフィックにおけるブロードバンドプロバイダーの特別扱いを禁止することで、開かれたインターネットを守るものです」と、FCC委員長のローゼンウォーセルは言う。「わたしたちはブロードバンドが100%の人々に届くようにする必要があります。高速で開かれた公正なブロードバンドが必要なのです」

「ネット中立性」をめぐる攻防

こうした再分類が初めて試みられたのはオバマ政権時代で、2011年のベライゾンの訴訟を受けてのものだった。訴訟の判決では、ブロードバンドをFCCの監視下に置く努力において、再分類という「ハードル」が必要であると指摘している。

この訴訟の結果、15年の「Open Internet Order(オープンインターネット命令)」の導入が促された。この命令はブロードバンド業界を裁判所の提案に沿って再分類したのみならず、「ネット中立性」に関する新たな規定を課し、それがFCCを導く哲学となったのだ。

それから2年後、これらの規定はトランプが任命した当時のFCC委員長アジット・パイ(元ベライゾンの弁護士)によって覆された。現在は民間部門に復帰しているパイは、このほどFCCが実施したことを「完全な時間の無駄」と冷笑している。パイいわく、それは「実際には誰も気にかけていないこと」なのだという。

ローゼンウォーセルの下で出された規定は、以前に導入されたものとは少し異なる。インターネット中立性を追求した過去のFCCの命令に対しては、裁判所で何度も異議が申し立てられてきた。このため、間違いなくやってくる訴訟の嵐にも耐えうるポリシーについて、FCCは正しく理解することができているのだ。

「インターネットの有料の“追い越し車線”」の創設を禁止することは、いまでも優先事項である。だが、ブロードバンドを再分類する理由は、よく知られている業界の強引な手法を撃退することだけにとどまらない。新たな命令では、業界の行為をより詳細に調べる権限もFCCに与えている。その対象としては、広い範囲でネットワーク障害が起きた際に企業がどう対応するのか(あるいは対応しないのか)といった例が挙げられる。

「インターネット中立性」は一連の規定として独自に考案されたものではなく、どちらかというと、ブロードバンド大手の利益追求の関心と消費者の権利や快適な生活とのバランスをとるための規制当局の原則として誕生した。この概念は、しばしば「データの出どころに関係なく、すべてのインターネットを同列に扱わなくてはならない」というシンプルな決まりに集約される。

“穏健なルール”を取り戻すための決定

トランプ時代のFCCは、ISPを規制する権限が自身にないと断言していた。その一方で、(結果的にはなしえなかったが)「自州のための規制を整備しようとする州を取り締まる権限はある」という矛盾した主張を繰り広げていた。

それでもカリフォルニア州は18年、ブロードバンド企業が多数の反消費者的な活動(デジタル差別やデータ差別から、ゼロレーティング[特定のウェブサイトやサービスについて恣意的なデータ制限を解除することで、ISPが消費者をそれらの場所に導く手法]に至るまで)に従事することを禁止する措置に踏み切った。

カリフォルニア州法のような法律のおかげで過去5年間、「実質的に無法状態」でISPのやりたい放題になる事態が防がれてきた──というのが、インターネット中立性を支持する人々の典型的な主張である。それに対する業界団体の言い分は、以下のようなものだ。「インターネット中立性の保護は最初から無意味だったに違いない。保護がなくなっても“空は落ちてこなかった”(=この世の終わりのようなことは起きなかった)のだから」

しかし、州レベルの保護では、ケーブルテレビや衛星放送の企業が反消費者的なポリシーを全国的に拡大する動きを止められなかった。業界は、年間契約を交わした顧客に早期契約解除の手数料を課すことが禁止されるなら、月額料金を引き上げると脅しをかけてきたのだ。そして、連邦取引委員会(FTC)が提案した「少なくとも契約開始時と同じように容易に解除できるようにする」ことを意図した規定にも反対している。

ローゼンウォーセルをはじめとするインターネット中立性の支持者たちは、それまでFCCの管轄下にあったコミュニケーションの形態を米国の世代が連続的に避けるようになり、ブロードバンドへの依存が高まっていると指摘している。ブロードバンドは、まぎれもなく現代の通信サービスである。FCCがインターネット中立性を指針として最初に採用しようとした当時よりも、その色合いは濃くなっている。

「25日の決定は、すでに法廷を通過した穏健なルールを取り戻すものであり、消費者や市民にやさしいインターネットに欠かせない構成要素でもあります」と、元FCC委員のマイケル・コップスは言う。「わたしたちのコミュニケーション技術はとても速く進化し、個人の生活の多くの重要な面に影響していることから、基本的に差別のない状態ですべての人が利用できるようにしなくてはなりません」

中立性の原則の要点

コミュニケーションの手段としてのデジタルプラットフォームやデジタルツールへの消費者の依存は高まるばかりだ。現代の10代の若者が電話で直接話すことを毛嫌いしている(なかには恐怖を感じている者さえいる)ことはよく知られている。

同時に、ポストコロナ時代の米国の労働者のコミュニケーション環境は激変した。それにもかかわらず、現代の米国社会には、消費者を食い物にするような料金設定や偏った利用制限と闘うための公的機関がほとんどない。消費者保護団体は「実質的な独占企業からサービスを受ける構造にとらわれており、米国民は購買行動で意思表示することができない」と訴えている。

インターネット中立性は当初の概念から大きく進化した。しかし、ティム・ウーがその言葉を生み出した2002年の白書において説明しているように、それはいまも「差別をしない」ポリシーの根底にある。

「中立性の原則の要点は、ブロードバンドキャリアのネットワークにおいて、インターネットプロトコル側の管理に干渉することではない」と、当時バージニア大学ロースクールの准教授だったウーは記している。「それはむしろ、その管理における差別を防ぐことである」

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

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