バング&オルフセンがCDプレーヤーの名作を復刻、その象徴的なデザインに“ストリーミング時代”こそ注目すべき理由

音響機器メーカーのバング&オルフセン(B&O)が、名作とも呼ばれる美しい縦型のCDプレーヤーを復刻発売した。スピーカーなどとセット販売される「Beosystem 9000c」は、なぜいま投入されることになったのか。
Beosystem 9000c CD Player and Speakers in a living room
Photograph: Bang & Olufsen

わたしたちが「世界で最も美しいガジェット」と呼ぶ製品の数々を生み出してきた音響機器メーカーのバング&オルフセン(B&O)が、ブランドを象徴するCDプレーヤー「Beosound 9000」を4月24日に再発売した。1990年代を生きてきた人なら、6枚のディスクとガラスの蓋が輝くこのCDプレーヤーが、ブルジョア志向が最も高い友人の家やドラマシリーズ「アントラージュ★オレたちのハリウッド」の背景に鎮座している様子を見たことがあるだろう。そんなCDプレーヤーをネットオークションで落札する代わりに、B&Oの新アイテムとして購入できるようになったのだ。

これはB&Oが「Recreated Classics(名作の復刻)」と呼ぶシリーズの第2弾となる。B&Oは、「Beosound 9000」のオリジナルユニット200台を調達し、デンマークのストルアーにある自社工場に持ち込んだ。そして、このオリジナルモデルの開発に携わったメンバーも含むB&Oのチームが、各ユニットの分解、洗浄、修理を慎重に進めた。さらに1台ずつ個別にテストされ、B&Oのオーディオ基準を満たすよう微調整が施されたのである。

よりモダンな外観にするために、チームはオリジナルの黒とアルミニウムの仕上げを反転させた。バックプレートが新たに「黒」になったことで、CDが芸術作品としてさらに際立つ。

とはいえ、すべてのアルミニウム部品はオリジナルの「Beosound 9000」のものをそのまま使っているので、心配には及ばない。これらのユニットはすべて、B&Oの工場でブラッシング、エッチング、ブラスト加工が施され、このクラシックなプレーヤー本来の外観と一致するように再機械加工と再陽極酸化処理がされている。

「Beosystem 9000c」は完璧なパッケージといえる。

Photograph: Bang & Olufsen

ドレスアップされたこのCDプレーヤーは、ハイエンドスピーカー「Beolab 28」とリモコン「Beoremote」とのセットでのみ販売される。これらのセットには「Beosystem 9000c」という名称が付けられた。

200ユニットのみが生産され、価格は55,000ドル(日本では750万円)だ。そんな価格ゆえに、わたしたちのほとんどには手の届かないものであろう。しかし、「Beosound 9000」のデザインは、それが何を象徴しているかという点で称賛に値する。

プレーヤーのガラス扉がモーターで開き、ディスクを交換できるようになっている。

Photograph: Bang & Olufsen

長期的な将来に向けた動き

このデンマークのブランドは、長きにわたって製品寿命を優先的に考え、高級素材を使用し、耐久性を念頭に置いてきた。また、その製品は他には決してない時代を超越した風変わりな雰囲気を醸し出している。

B&Oといえば、ピクニックバスケットのような見た目のポータブルスピーカー「Beosound A5」を個人的には思い浮かべるが、2021年にはワイヤレススピーカー「Beosound Level」も発売されている。これは簡単に修理できるよう設計された非常に美しい2,000ドル(日本では25万9,900円)のBluetoothスピーカーだ。バッテリー、木材のパーツ、布地はすべて交換可能なので、このスピーカーの寿命は数年ではなく数十年になる。

「家電業界は資源効率がさほどよくありません」と、B&Oの製品循環とポートフォリオ計画の責任者であるマッツ・コグスガード・ハンセンはメールでの問い合わせに対して説明している。そしてデザインを通じて陳腐化に対処することで、彼のチームは「製品が当初の使用可能なライフサイクル後にも目的を果たす、より長期的な将来に向けた動きを生み出せるのです」という。

オリジナルの「Beosound 9000」のデザインは、ニューヨーク近代美術館に作品が展示されている伝説的な工業デザイナーのデビッド・ルイスが手がけた。内部構造を全面的に見えるようにしたガラス張りのプレーヤーのデザインは、音楽機器の基本的な機能を露出させることが美しいという「オーディオビジュアリティー」のコンセプトに基づいている。

もちろん、最近では透明なコンピューターの筐体やヒンジが露出した折り畳み式スマートフォンを見かけても驚きはしない。しかし1990年代には、滑らかなクランプがCDの間を音もなくスライドしたり、「Beosound 9000」の電動のガラスの蓋がゆっくりと開いたりする様子を眺めることは贅沢の極みだったのだ。

いま改めて注目されるCDの魅力

B&Oによる今回の復刻は、CDの再興とも時を同じくしている。20代のころレコード店(主にCDを販売していたが、そう呼ばれていた)で働いていたことがあるのだが、そこはバンドが昼間に無料のショーやCDサイン会をする場であり、カントリーミュージックの売り場が混雑しすぎていることで、ブラブラと歩いてデスメタルやアフリカンファンクの試聴スポットにたどり着くような場でもあった。

箱の中に入ったCDケースをめくるカチッ、カチッという音は、脳裏に永久に刻み込まれている。Z世代の購入者が長い間ほったらかしにされてきたCDコレクションを漁っていることからもわかるように、当時CDで音楽を聴くほどの年齢ではなかった人たちも含め、多くの人がCDを懐かしんでいるのだ。

この記事を書くにあたり、古いCDが入った封筒をクローゼットから引っ張り出してみた。すると、それぞれに400枚のディスクが詰められていた。バンドのオリジナルCDだけでなく、友達に“焼いて”もらいったもので、女子高生の丸文字の手書きラベルが付いたダビングしたCDやミックスしたCDも見つかった。

夫はジャムバンドのライブ音源をもっており、苦労がうかがえる自前の印刷されたラベルカバーがそれぞれに付いていた。若者の心を掴むほかの媒体と同様に、CDはカスタマイズしたり、贈ったり贈られたりしやすく、そして手ごろな価格となっていたのである。

Photograph: Bang & Olufsen

「若者がCDに熱中する傾向が復活しています」と、オレゴン州ポートランドで最古の音楽店のひとつである「Music Millennium」のオーナーのテリー・カリアーは語る。「若者がCDプレーヤー付きの中古車を購入していることが、その要因のひとつです。アナログレコードの価格が上がっていることも挙げられます。例えばモデスト・マウスの2枚組アルバムですが、これはレコードに収録できる曲数が限られているので2枚組になっています。サウンドもいいです。しかし、おかげで40ドル(約6,000円)します。それがCDなら13.99ドル(約2,000円)で購入できるのです」

この記事を書いているとき、「毎月10ドルも払えば世界中のあらゆる音楽を聴けるのに、なぜ14曲入りのCD1枚に10ドルも払うのだろうか?」と尋ねた人がいた。しかし、ポイントはそこではない。ストリーミングサービスではアーティストや権利を管理する企業の都合によって、曲やアルバム、楽曲全体が削除される可能性があるのだ。

Spotifyのビジネスモデルは利益という点でますます危うくなっており、ストリーミングサービスはアーティストに対して、ストリーミング1回あたりほんのわずかな金額しか払わないことは有名である。リスニング体験もそれほど特異的なものでも柔軟なものでもない。アルゴリズムによって、なぜ何度も何度もイエローカードの「Ocean Avenue」が提案されるのか、いまだにわからないでいる。

確かにCDは完璧ではない。CDケースがときに開けにくいことは誰もが知っている。不意に指紋が付いてしまえば、新品のディスクが台無しになる可能性もある。特に暑い車内でプラスチックのケースに入れて保管しているだけだと、劣化しやすくなるだろう。

それにレコードやカセットテープほどモノとして“いい感じ”でもなく、収集価値もない。だが、CDほど高品質な音楽を簡単に聴かせてくれるほかの媒体を、いまのところ知らない。幸運にもストリーミング以前の時代を生きてきた人たちにとってのほかのあらゆる形態のレトロテクノロジーと同様に、CDやCDプレーヤー、特に「Beosound 9000」のような象徴的なものは、常にわたしたちの心の中にあり続けることだろう。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

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