イランのイスラエル攻撃に便乗したフェイク動画が拡散している

イランのイスラエル攻撃に関連するものだと見せかけた虚偽の情報が、Xで拡散している。生成AIを使用してつくられた動画や写真のほか、過去の紛争の映像を再利用したものなど、全く関係のないコンテンツを今回のものだと騙るケースもある。
イスラエルの対空防衛システム「アイアンドーム」。4月15日、エルサレムで。
イスラエルの対空防衛システム「アイアンドーム」。4月15日、エルサレムで。Saeed Qaq/Anadolu via Getty Images

4月13日、イランがイスラエルに対してドローンとミサイルによる攻撃をしたと発表した数時間後、Xでは偽りや誤解を招く情報が拡散した。シンクタンク Institute for Strategic Dialogue(ISD、戦略対話研究所)は、X上でイランによる攻撃とその影響を明らかにしたと主張する多くの投稿を発見したとを報告している。このなかには、実際には人工知能(AI)が生成した動画や写真のほか、過去の紛争の映像を使用しているものが含まれていた。生成AIによるコンテンツには、夜空へのロケット発射や、バイデン米大統領が軍の作業着を着用している場面などがあった。

ISDによると、このような誤解を招く投稿は34件分だけでも3,700万回閲覧されたという。誤情報を投稿している多くのアカウントは認証済みだった。つまり、これらのアカウントはXに月額8ドル(日本では980円)を支払って「青いチェックマーク」を得ており、投稿内容はプラットフォームのアルゴリズムによって広く拡散されたということだ。ISDはまた、いくつかのアカウントが、オープンソース・インテリジェンス(OSINT)専門家であると主張していることも発見した。これが近年、これらの投稿に正当性を与える新たな手段となっている。

イラン国営メディアも無関係な動画を共有

「第三次世界大戦が公式に始まった」と主張するXのある投稿は、夜にロケットが発射される様子を示す動画を含んでいたが、この動画は実際には2021年に投稿されたYouTube動画だった。別の投稿は攻撃中にイスラエルのミサイル防衛システム「アイアンドーム」が使用されたと主張していたが、その動画は実際には23年10月のものだった。これらの投稿はどちらも認証済みアカウントから発信され、攻撃が発表された後の数時間で数十万回の視聴があった。さらに、イランの国営メディアも今年初めにチリで発生した山火事の動画を共有し、それが攻撃の後の様子を示していると主張していた。これもXで拡散した。

「多くの誤情報や偽情報が、注目を集めようとしていたり、金銭的利益を目的としていたりするアカウントによって拡散されています。この状況が、さらに悪質な存在に隠れ蓑を提供しています。そのなかには、イランの国営メディアも含まれます。チリの山火事の映像をイランの攻撃によるイスラエルの被害の映像として流し、その作戦を軍事的成功だと主張していたのですから」と、ISDの技術・社会ディレクターであるイザベル・フランシス・ライトは解説する。そして「情報を取り巻く環境は腐食していると言わざるを得ません。このことが、真実と虚偽を区別するために必要な人々の能力を恐るべきレベルで損なっています」と付け加えた。Xはこの記事公開時点で、取材には応じていない。

危機に便乗しSNSを“汚染”する人たち

ソーシャルメディアは以前から、紛争や危機の際に誤情報を拡散させてきた。その一方で、Xは緊急時に必要不可欠な情報を得るためにも使用されている。しかしXは、イーロン・マスクがコンテンツのモデレーションの人員を削減して以降、偽情報を止められなくなっている。10月7日のハマスによる攻撃の後の数日間、Xは偽情報で溢れ、正当なOSINT研究者が情報を探し出すことを困難にした。マスクの下で、Xはプラットフォーム上の誤情報と戦う方法として、コミュニティノート機能をクラウドソーシングで推進しているが、その成果にはばらつきがある。ISDが特定したコンテンツの一部にはコミュニティノートがつけられるようになったが、ISDが発見を公表した時点では、わずか2つの投稿にしかコミュニティノートはついていなかった。

「危機が起こると、Xのようなプラットフォームで繰り返されるパターンがあります。Xプレミアムに加入しているアカウントが、情報のエコシステムを“半分だけ真実”である内容と虚偽で汚染するのです。これは、メディアだと誤認されたアカウントや、ある出来事が特定の行為者や国家によって引き起こされたことを示唆する、虚偽のイメージを使って行なわれます」。ISDのアジア・中東・アフリカ担当エグゼクティブディレクター、ムスタファ・アヤドはこう説明する。「問題は続いており、将来的にも続くでしょう。これにより、何が真実で何が虚偽なのかを知るのがさらに困難になります」

そして、Xのサブスクリプションモデル広告収益分配モデルに参加する人々にとって、バズが起きるということは、金儲けができる可能性を意味する。

ISDが特定した偽情報や誤解を招く情報を拡散していたユーザーが、コンテンツから収益を得ているかどうかは明らかではない。しかし、今月初めにデジタルヘイト対策センター(CCDH)が発表した別の報告書では、10月7日から2月7日までの間に、極右インフルエンサーのジャクソン・ヒンクルを含む10人のインフルエンサーが、イスラエル・ハマス衝突に関する反ユダヤ主義や反イスラム教徒の内容を投稿することでフォロワーを増やしたことがわかっている。CCDHが調査したアカウントのうち6つはXのサブスクリプションプログラムに参加しており、10人全員が認証済みユーザーだった。Xの広告収益分配プログラムに参加しているインフルエンサーは、「リプライに表示される広告のオーガニックインプレッション」に基づき、広告収益の一部を受け取っていると、同社は記している

(Originally published on wired.com, translated by Mamiko Nakano)

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