AIが駆動するノンプレイヤーキャラクターがゲームの未来をつくる

AIがゲーム業界に与える影響について、開発者たちはワクワクすると同時に不安も覚えている。そんななか、大手ゲーム企業ユービーアイソフトは、リアルタイムでプレイヤーと交流するAIキャラクター「ネオNPC(ノンプレイヤーキャラクター)」を開発中だ。
Video game still showing an NPC character standing next to a small monitor in a room with a dialogue box introducing...
ユービーアイソフトの「ネオNPC」。Courtesy of Ubisoft

縁のない帽子を耳までかぶり、ジャガイモのような顔をしたNPC(ノンプレイヤーキャラクター)であるBloomが、わたしの戦略と戦闘について尋ねてきた。「マップに従い、ガツンと殴る」と、わたしはマイクに向かって答えた。

スクリーンの下部に会話がテキストとして表示される。NPCは、わたしが自慢していると考えた。レジスタンスにおけるわたしたちの立場や反撃方法などをだらだらと話し続けている。その声は細くて機械的に聞こえるが、耳障りではない。

Bloomは「ネオNPC」だ。フランスの大手ゲーム企業であるユービーアイソフトによって、プレイヤーと会話できるNPCとして開発された。Bloomはまだ研究開発段階にあるが、機械学習を製品に取り込もうとするゲーム会社の努力の結晶だ。

3月に開催された「ゲーム・デべロッパーズ・カンファレンス(GDC)」では、ゲーム業界にAI旋風が巻き起こっていることが実感できた。わたしがBloomと出会ったのも、そのカンファレンスでのことだ。ユービーアイソフトのデモ以外にバスケットボール・プレイヤーのボットから生成AIを用いた「変革的なアプリケーション」まで、ありとあらゆるセッションがあった。同時に、全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)によるトークも行なわれ、ディープフェイクやAIがゲーム開発者のキャリアに与える影響についても議論された。カンファレンスに先駆けてGDCが行なったアンケートによると、回答した開発者の49%が会社で生成AIを使っていることがわかった。しかし、5人に4人は生成AIの利用に倫理的な懸念を感じていると答えた。

AIのNPCと交流しながらプレイ

そうした議論のなかで、AIをNPCに利用するという考えはますます現実のものとなっている。ユービーアイソフトのデモに加えて、AI革命を支えるGPUの大部分を製造しているエヌビディアが「開発者たちが、自然言語を用いて会話できるAI支援型デジタルヒューマンをつくること」を可能にする一連のツールを披露した。同社はツールの披露に際して、「Covert Protocol」のビデオクリップを公開している。AIキャラクター会社のInworldと共同開発した技術デモだ。

ユービーアイソフトもエヌビディアの技術を利用してネオNPCを開発し、それを3種類の方法でデモした。最初に、わたしはゲームで設定されたいくつかの目標を達成するためにBloomと話し合った。Bloomと打ち解けるにつれて、世界を支配する巨大企業や抵抗組織のことなどが明らかになっていった。Bloomには気兼ねなく質問をぶつけることができるし、気持ちよく応じてもくれる。ユービーアイソフトの上級データサイエンティストのメラニー・ロペズ・マレによると、Bloomは扱いやすくデザインされているが、同社が創作したNPCには、攻撃的とは言わないまでも、もっとよそよそしいキャラクターもいるそうだ。開発チームがBloomとの会話に目標を追加したのは、社内での初期テストの際に、プレイヤーの多くがシャイになることに気づいたからだという。

「交流することに不安を覚える人がいるのです」とマレは説明する。そうした人は忙しそうに見えるNPCに声をかけるのをためらい、怒っているように見えるNPCから遠ざかろうとする。NPCにどう話しかければいいのかわからないのだ。「(プレイヤーは)『知り合いがひとりもいないパーティにきちゃった、どうしよう』といった感じになっていました」とマレは言う。でも、彼女はそれをいい兆候だと思ったそうだ。なぜなら、NPCがプレイヤーに社会的本能を使うよう促していることを意味しているからだ。また、テキストを用いた会話のほうが、プレイヤーははるかにオープンになるそうだ。「口に出して言いたくないことって、ありますよね?」とマレは言った。

「ネオNPC」はリアルタイムでプレイヤーと交流する。

Courtesy of Ubisoft

ユービーアイソフトのネオNPCはリアルタイムでプレイヤーと会話する。 デモの次のふたつの部分は、それほど興味深いものではなかった。ひとつは、わたしの(大量の)質問に答えながら、状況を説明しようとするNPCの長文をじっと眺めなければならなかった。物語の進行状況の要約には興味がもてなかったので、わたしはNPCの許容範囲を探ることに夢中になった。失礼な態度をとったり、極めて個人的な質問をしたり、ミッションの重要ポイントで「すごく眠い」と言ってみたり。そのように、荒らしたい、気をそらしたい、試してみたいと思うのは、わたしだけではないようだ。

「普通だと思います。わたしたちが特別に幼いというわけでもありません」とマレは言う。彼女はNPCに対してもっとひどいことをしようとするプレイヤーがいるのを知っているのだ。「ゲームをもっとおもしろくしたいと思っています。おもちゃで遊ぶわけですから」

リリースするのは時期尚早

これはどちらの側にも当てはまる。これらのキャラクターはいまだに箱のなかの存在で、背景や個性は物語デザイナーが創作したものだ。AIキャラクターが一般的なゲームに欠かせない存在になるにつれて、クリエイターたちはAIキャラクターが大きく脱線してしまわないように注意する必要が増す。会話相手をだましたり悪質な議論へ導いたりするAIボットから学ばなければならない。ユービーアイソフトは、AIをビデオゲームにリリースするのは時期尚早で、公開したデモも、まだ一般の人々の参加するストレステストができる状態には達していないと判断している。

いまのところの仕事は、人々の関心を引くことだけだ。デモの最後の部分は戦略性が高く、わたしは脱出経路やガードの気をそらす方法の注意点について議論することになった。その時点で、NPCはわたしのことを何でも知っていた。近くにあったメモには、わたしは「熱心だが無知」で、質問が多い、と書かれていた。「眠気を誘う呪文には気をつけろ」とも。とても適切で、わたしはうれしかった。マレは、開発チームはまだ技術の端緒に触れただけの段階だと言う。

実際にプレイすることで、AIの可能性がはっきりと見えた。シム相手のデートや、チームメイトとの絆をつくることが重要なMass Effectシリーズのような作品で、どこまでうまく機能するかが気になるところだ。その斬新さや、ロールプレイにおける潜在能力には魅力を感じるが、いまだにどこか不気味で不自然な部分がある。Bloomには、まだ成長の余地がある。

(Originally published on wired.com, translated by Kei Hasegawa, LIBER, edited by Mamiko Nakano)

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