アップルの「iMessage」支配に挑んだスタートアップBeeperの“悪くない”結末

アップルのメッセージサービス「iMessage」をAndroidでも使えるようにしたアプリ「Beeper Mini」の運営元であるBeeperを、「WordPress」や「Tumblr」を所有するAutomatticが1億2,500万ドル(約190億円)相当で買収すると発表した。
3D render of a violet smart phone with dark and light violet message bubbles on the screen
Illustration: Hector Roqueta Rivero/Getty Images

2023年の終わりに、メッセージングアプリ「Beeper Mini」によってアップルの「iMessage」がAndroidでも使えるようになった。Androidからのメッセージも、iOSの場合と同じ「青色の吹き出し」で表示されるようにしたことで、同アプリを提供するスタートアップのBeeperはアップルの怒りを買うことになった。その後アップルはBeeperを使えないようにしてしまったわけだが、Beeperにとってはそう悪くない結末が訪れた。1億2,500万ドル(約190億円)相当で買収されることになったのだ。

Beeperの買い手は、ブログ・コンテンツ管理プラットフォーム「WordPress」と「Tumblr」を2019年に買収し、その親会社となったAutomatticだ。Beeperの共同設立者エリック・ミンコフスキーによると、BeeperはAutomattic社内で独立した製品として存続する。フルリモートで働く従業員27人全員も、Automatticのより大きな組織に吸収されることになるという。

買収に関する細かな財務条件は明らかにされていない。Automatticの創設者マット・マレンウェッグにコメントを求めたが、彼は休暇で日食を追いかけており、回答を得られなかった。ミンコフスキーによると、BeeperはAutomatticの広範な戦略の一部を担うことになり、より豊富なメッセージング機能を提供していくという。Automatticは22年に初めてBeeperに投資し、23年末には別のメッセージングアプリ「Texts」を5,000万ドル(約76億円)で買収している。

“平等”なメッセージングを目指したBeeper

23年、BeeperはAndroidのメッセージとiMessageとの間のギャップを埋めようとしたが、最終的には断念した。30,000人のユーザー数はクリティカルマスに達しておらず、アプリを収益化できなかった。

「Beeperは “イージーモード”の会社ではありません。この経験を通してわたしが学んだひとつは、自分にとっての友人は誰なのかを、きちんと理解しなければならないということです」とミンコフスキーは語る。「マット(・マレンウェッグ)とAutomatticは非常に協力的で、チャットとメッセージングの将来について話すうちに、彼とわたしの考えが合致しているのがわかりました」

Beeperは、ミンコフスキーとブラッド・マリーによって2020年に設立された。ミンコフスキーはその前、10年代初頭にスマートウォッチ会社Pebbleを設立しており、同社はオープンソースのソフトウェアとE Ink電子ペーパーの革新的な使用で技術オタク層にアピールしていた。Pebbleは16年、経営不振によりFitbitに売却された。Beeperの売却は、Pebbleの売却よりも成功していると言えるだろう。

Courtesy of Beeper

新型コロナウイルスのパンデミック初期、ミンコフスキーはメッセージングの断絶された現状──つまり、ほとんどの人が連絡をとり合うために異なるアプリを使わなければならないという事実に気づいた。そこで彼とマリーは、「Matrix」と呼ばれるオープンソースの分散型メッセージングプロトコルを使い、すべてのメッセージングアプリをコンテナ化するサービスの構築を開始した。

ミンコフスキーは、AndroidとiOSとの間で平等なやりとりが行なわれることを目指した。通常、AndroidユーザーがiOSデバイスにメッセージを送信すると、緑の吹き出しで表示される。青い吹き出しはiMessage専用だ。Beeperでは、暗号化された安全なメッセージを青い吹き出しでiOSデバイスに送信できる。

Beeperの通常版は、iOSデバイスへのAndroidメッセージがデフォルトでSMSにならないよう、数百台の「Mac mini」コンピュータを中継点として使用していた。

しかしチームは後に、iOSの通知の仕組みをリバースエンジニアリングし、BeeperのアプリとiMessageとの間でメッセージをやりとりできる「Beeper Mini」を開発する。Androidユーザーも、iPhoneユーザーに安全な「青色の吹き出し」でメッセージを送ることができるようになった。通常版は無料だったが、Beeper Miniで同社は、ユーザーに月額2ドルを課金した。

大手テック企業に楯突く存在の象徴に

23年11月下旬にBeeper Miniがリリースされるやいなや、アップルはセキュリティ上の懸念を理由にBeeper Miniを潰す措置をとった。Beeper Miniではたびたび障害が起き、ミンコフスキーとチームは応急措置に奔走した。暫定的にアプリを無料にもしたが、12月下旬、Beeperはアプリの運営を断念する。この戦いで、アップルが自社のソフトウェアを厳しく管理しているという点に対しての注目が高まった。

12月にはまた、10を超える監視団体とデジタル著作権団体が、米司法省と米議会上院司法委員会に対し、アップルが反競争的行為をしているとして調査を要請していた。司法省の調査はすでに進められていたが、24年3月には提訴に至り、反トラスト法上の懸念事項として緑色の吹き出しが挙げられた。

Beeperは結局のところ、強固な姿勢を崩さない大手テック企業に楯突いた新興企業が直面する課題の象徴的存在だったと言える。しかしミンコフスキーは、売却という結果に失望しておらず、Beeperが大手テック企業に買収されなかったことにほっとしているという。彼はBeeper製品の責任者としてAutomatticにとどまる。「企業が一部の市場や市場の特定の分野において利益を独占する反競争的行為に対し、少なくとも、別の視点をもち込めたと思います」

BeeperがオープンソースのMatrixプロトコルに基づいてつくられていることも、Automatticにとっては魅力的だった。Beeperの利用は広範囲には渡っていなかったものの、アプリに10以上の異なるメッセージングプラットフォームを集約することに成功していた。この点では、iMessage、WhatsApp、Signal、Messenger、Slackなどをコンテナ化するTextsと類似している。

Texts買収時、マレンウェッグは『TechCrunch』の取材に対し、あまりにも多くのテクノロジーサービスが「閉鎖的」になりすぎており、「振り子はいま、より『開放的』な標準を求めて反対方向に非常に激しく揺れている」と語った。現在Automatticの最も重要な製品はWordPressだが、長期的にはウェブサイトではなく、メッセージングアプリがより大きな影響力をもつ可能性があると、マレンウェッグは考えているという。

テック系スタートアップが長続きするのは難しいが、少なくとも、Beeperは生き延びたのだ。

(Originally published on wired.com, translated by Rikako Takahashi, edited by Mamiko Nakano)

※『WIRED』によるAndroidの関連記事はこちら


Related Articles
chat bubble in blue
アップルがメッセージサービス「iMessage」をAndroidでも使えるようにするアプリ「Beeper Mini」を、このほど利用できなくした。メッセージの相互運用性はスマートフォンにとって重要な課題だが、今回の事態に開発元は何を思うのか。Beeperの共同創業者に訊いた。
Signage and a crowd of people outside of an Apple Store
米司法省などがアップルを独占禁止法(反トラスト法)違反の疑いで3月21日(米国時間)に提訴した。市場におけるiPhoneの支配的地位を利用して競争やイノベーションを阻害している、というのが主な主張だ。
A light blue and green speech bubble on a dark blue background
アップルの「iMessage」は原則としてアップルのデバイス間でしかメッセージをやりとりできない。そこで、AndroidユーザーがiMessageの会話に参加できるようにする2つの方法を紹介しよう。

雑誌『WIRED』日本版 VOL.52
「FASHION FUTURE AH!」は好評発売中!

ファッションとはつまり、服のことである。布が何からつくられるのかを知ることであり、拾ったペットボトルを糸にできる現実と、古着を繊維にする困難さについて考えることでもある。次の世代がいかに育まれるべきか、彼ら/彼女らに投げかけるべき言葉を真剣に語り合うことであり、クラフツマンシップを受け継ぐこと、モードと楽観性について洞察すること、そしてとびきりのクリエイティビティのもち主の言葉に耳を傾けることである。あるいは当然、テクノロジーが拡張する可能性を想像することでもあり、自らミシンを踏むことでもある──。およそ10年ぶりとなる『WIRED』のファッション特集。詳細はこちら