かつてWindowsと競合した「OS/2」の“遺産”を継承、30年以上も続いたソフトウェアアーカイブが閉鎖へ

1990年代にマイクロソフトのOS「Windows」と競合した「IBM OS/2」用のソフトウェアを収蔵したオンラインアーカイブが、2024年4月15日に閉鎖される。その30年以上にもわたる歴史は、デジタル遺産を後世に残すことの重要性を改めて認識させられる。
Dell 009
Dell 009Photograph: John Lamb/Getty Images

ひとつの時代の終焉を告げる動きがあった。ニューメキシコ州立大学(NMSU)が、ソフトウェアのオンラインアーカイブ「Hobbes OS/2 Archive」を2024年4月15日に閉鎖すると発表したのである。このソフトウェアアーカイブは、かつて「Microsoft Windows」と熾烈な競争を繰り広げたオペレーティングシステム(OS)「IBM OS/2」と後継OSのユーザーにとって、30年以上にわたり重要なリソースであり続けてきた。

ニューメキシコ州立大学の広報担当者は、テック系ニュースサイト「The Register」に次のようにコメントしている。「わたしたちは『hobbes.nmsu.edu』のファイルのホスティングを継続しないという難しい決断を下しました。詳細はお伝えできませんが、優先順位を検討した結果、サービス中止という難しい決断をせざるを得なかったのです」

1995年に発売された「OS/2 Warp V3(Version 3)」の外箱。当時はWindowsの競合OSだった。

Photograph: IBM

少なくとも32年間の歴史

Hobbesをホスティングしているのは、米南西部のニューメキシコ州ラスクルーセスにあるニューメキシコ州立大学の情報通信技術学部だ。公式発表には「長年にわたってサービスを提供してきた『hobbes.nmsu.edu.』ですが、廃止され、利用できなくなることが決定しました。2024年4月15日をもって、このサイトは存在しなくなります」と書かれている。Hobbes OS/2 Archiveの歴史について大学側に問い合わせたが、返答は得られなかった。

オンライン上で見つかるHobbes OS/2 Archiveの最も古い記録は、1992年にハンドルネーム「Walnuc Creek」が作成したCD-ROMのコレクションで、オフライン配布用にアーカイブの内容を収集したものだった。このように少なくとも32年間の歴史があるHobbesのアーカイブは、ミシガン大学のアーカイブやノースカロライナ大学チャペルヒル校の電子図書館「ibiblio」と同様に、インターネット上で最も古いソフトウェアアーカイブのひとつである。

ジェイソン・スコットをはじめとするアーキビスト(インターネットアーカイブの専門家)によると、Hobbesにホスティングされていたファイルは安全であり、すでにほかの場所にミラーリングされたという。「Hobbesについてはわたしが対処済みなので、皆さんは一切心配する必要はありません」と、スコットは分散型SNS「Mastodon」に1月初旬に投稿している。また、OS/2コミュニティの「OS/2 World.com」もミラーリングに関するコメントを発表した。

それでも、このように古くて価値のあるインターネットの歴史の一部が埋もれていくことは、やはり注目に値する。

1989年にリリースされた「OS/2 Version 1.2」のデスクトップ画面。

Photograph: os2museum.com

貴重なデジタル・タイムカプセル

多くのソフトウェアアーカイブがそうであるように、HobbesもFTPサイトとして始まった。「インターネット上でのファイルの配布は、主にFTPサーバー経由だったのです」と、アーキビストのスコットは取材に対して語っている。

「FTPサーバーがダウンした際には、ほかのFTPサーバーでサブディレクトリとしてミラーリングされました。『CDROM.COM』や『Walnut Creek』のような企業は現在はアイテムのCD-ROMを入手するためだけの手段になりましたが、多くのデータはhttp://ftp.cdrom.comからダウンロードできるようになっていました」

Hobbes OS/2 Archiveのサイトは、貴重なデジタル・タイムカプセルだ。いまも残る人気ランキング「トップ50」のページには、サウンドや画像の編集ソフト、メールソフト「Thunderbird」のOS/2版などが含まれている。

このアーカイブには、1987年のOS/2の発売までさかのぼる何千種類ものOS/2のゲーム、アプリケーション、ユーティリティ、ソフトウェア開発ツール、ドキュメント、サーバーソフトウェアなどが収蔵されている。1990年から使われていたOS/2の壁紙に出合うと、ある種の魅力を感じる。

アーカイブの更新ポリシーでさえ歴史的な逸品だ。最終更新日は1999年3月12日となっている。

OS/2の最終形態となった「OS/2 Warp V4(Version 4)」のデスクトップ画面。この画面はエミュレーター上で動作している様子。

Photograph: os2museum.com

残された遺産の価値

OS/2は、IBMとマイクロソフトの共同事業として始まった。PC用OS「IBM PC DOS」(IBM以外のPC用にマイクロソフトが提供したものは「MS-DOS」とも呼ばれた)の代替として計画されたのである。

OS/2は、32ビット処理やマルチタスクといった高機能にもかかわらず、後にWindowsと競合し、なかなか人気を得ることができなかった。そして「Windows 3.0」が成功した後、IBMとマイクロソフトの提携は解消され、両社は異なるOS戦略をとるようになっていった。

OS/2は「OS/2 Warp」へと進化しながら、金融機関のATMやニューヨークの地下鉄システムなど、高い安定性を必要とするニッチな市場で重要な存在感を確立していった。いまでこそLinuxやWindowsの影に隠れているものの、その伝統は特殊なアプリケーションやサードパーティーのベンダーが管理する新たなバージョン(MensysのOS「eComStation」など)に受け継がれている。

こうした歴史の足跡は、保存する価値がある。OS/2の主要なアーカイブのひとつが失われることは、たとえほかの場所にミラーリングされていたとしても文化的な打撃だ。

Hobbes OS/2 Archiveは以前も消滅しそうになったことがあるが、そのときは生き延びたという記録が残されている。TrevorHというハンドルネームの人物は、「The Register」の記事のコメント欄に次のように書き込んでいる。「Hobbesが廃止を発表したのはこれが初めてじゃない。前回は多くの苦情が寄せられ、多数の学生や教員も維持継続のために乗り出したことで救済されたんだ」

最終的な閉鎖が予定される4月15日が近づくにつれ、Hobbesの功績はソフトウェアのデジタル遺産を後世に残すことの重要性を思い起こさせる。そうすることによって、数十年後に歴史研究者が振り返り、物事がどのようにしてその状況に至ったかを知ることができるからだ。

(Originally published on Ars Technica, edited by Daisuke Takimoto)

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