DON'T LOOK BACK IN: なみちえのドライブ進化考 【VOL.04_ABARTH 500e】

まさにいま、モビリティは進化中。アーティストのなみちえが、クルマと暮らしの新しい関係を、ドライブしながら考える連載だけれど、今回はマイナーチェンジ。クルマはアバルトの500e。
なみちえのドライブ進化考 【VOL.04ABARTH 500e】
PHOTOGRAPH: MASATO KAWAMURA

アバルト500eのエンブレムは電気サソリ。

PHOTOGRAPH BY MASATO KAWAMURA

東京は薄曇り。この日のクルマはアバルト500e。チューンアップされた刺激的な走りと“スコルピオーネ”のエンブレムで知られるブランド初のBEVだ。

1950年代のイタリアで、国民車のフィアットを格別なレーシングカーへと仕立て上げる才と技により、熱狂的かつすこぶるニッチな人気を博したという出自(現在はフィアット社の傘下)からもわかる通り、ありていに言ってノーマルな電気自動車(EV)ではない。

先行モデルのフィアット500eをベースにしながら、デザインはより先進的かつスポーティに、走りはよりパワフルに。最大出力は3割も増えている。が、バッテリーはそのままの容量なので、航続距離は1割ほど短いとか。

でもまあ、そんなことを気にするようなら、このクルマはお勧めできない。なにしろ車体後部の床下にわざわざスピーカーを付け、走行と巧みにリンクしたエンジン音(ファンからは“レコードモンツァ”の音と呼ばれる)を響かせる機能まであるのだから。合理的な電力消費を求めたら、この「サウンドジェネレーター」という素敵な機能のスイッチを、オンにできそうもないではないか。

ボリュームと丸みのあるリアバンパーの下部にはディフューザーが備わり、キリリと引き締まった印象だ。

PHOTOGRAPH BY MASATO KAWAMURA

18インチのアロイホイールはダイヤモンドカット。デザインはあくまでスポーティ。

PHOTOGRAPH BY MASATO KAWAMURA

ここでガーナより入電。なみちえとハンズフリーで会話する。フィアット愛好家の彼女は歯ぎしりしていた。

「すごく乗ってみたかったクルマのひとつです。ガーナで給電スポットは見たことないので、こっちでは乗れませんけど」

そして500eの“エンジン音”についてこうも話した。

「合理性から離れたところに、人として大切なことがあるってことですよね。ガーナでは知らない人でもクルマに乗り合わせるんです。歩くのが大変そうなら助けてあげる。理由はそれだけ。だからUberは流行らないだろうし、そういう社会のほうが生きていて楽しいですよね」

なるほど。追って届いたプレイリストは、エネルギーに満ちたご機嫌なアフリカンビートだった。

内装はブラックを基調としておりシックな印象。ステアリングホイールはレザーとアルカンターラでつくられている。センターマークはブルー。

PHOTOGRAPH BY MASATO KAWAMURA

ルーフはガラス。カブリオレタイプはこちらが電動開閉式のソフトトップになる。

PHOTOGRAPH BY MASATO KAWAMURA

CAR

ABARTH 500e Turismo

2023年秋より日本で発売開始したBEVの2ドアハッチバックでTurismoはそのレギュラーエディション。7.0秒で時速100kmに達するという躍動感のあるモーターは、特に20〜60km/hの低中速域での加速性能に優れているとされる。さらにガソリンモデルと比べより50:50に近いバランスの取れた前後重量配分とプロポーションを実現し、ハンドリングの即応性と安定性を両立している。回生ブレーキを最大限に活用したワンペダルのドライブは慣れるとかなり楽しい。交通標識を認識しドライバーに伝達したり、レーン内の走行を補助したりと安全性能も標準装備。サイズ 3,675×1,685×1,520mm/重量 1,360kg/定員 4名/パワーシステム BEV 114kW(155ps)・FF/充電走行距離 303km(WLTCモード)/¥6,205,000〈ABARTH/ステランティス ジャパン

PLAY LIST

DRIVER (Remote)

NAMICHIE | なみちえ

1997年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。東京藝術大学先端芸術表現科を首席卒業し在学中から現在まで受賞多数。音楽や着ぐるみ制作、執筆などマルチに活動するアーティスト。昨年末より父の母国のガーナにて無期限の遊学中。そんななか大阪で開催した初の個展「Namichie x Kigroom」は盛況のうちに終了した(と聞いた)。写真は近所のジャングルに向かう前の様子。土の道が延びていった先にある。太陽のパワーも強烈。

Edited by Satoshi Taguchi

雑誌『WIRED』日本版 VOL.52 特集「FASHION FUTURE AH!」より転載。
※『WIRED』によるCarの関連記事はこちら


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