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──「GREEN IS GOOD」の活動がスタートしてから15年以上がたちます。改めて、その底流にある思想について教えていただけますか?

新井 やはり大きいのが社長の渡辺貴生の存在です。彼とは1997年から現在まで、ザ・ノース・フェイスをはじめ、さまざまなブランドや事業を推進するべく共に取り組んできました。渡辺は、ことあるごとに「将来を考えて行動をしなければならない」と語ります。そこには、環境への考慮はもちろん、「われわれが多大なる恩恵を受け共存しているアウトドアフィールドを、いかにして持続的に残し、将来を担う子どもたちにどうつなげていくかを使命とすることを、あらゆる場面で念頭に置いて行動するように」といった含意があります。その思いを体現したGREEN IS GOODは、ゴールドウインのすべての活動における包括的な理念であり、ビジョンです。ただ、全製品に対して思いが反映されているかといえば、まだまだこれからではあります。

新井 元|GEN ARAI
ゴールドウイン常務執行役員 開発本部長。1991年、ゴールドウインに入社し、長年にわたってザ・ノース・フェイスの製品開発・企画を担当。2014年からは社名を冠するスキーウエアブランド「ゴールドウイン」の事業部長を務め、リブランディングを指揮。現在はゴールドウイングループのものづくりにおける基幹施設「ゴールドウイン テック・ラボ」が位置する富山県を主な拠点に活動している。好きなアクティビティはスキー。

──GREEN IS GOODという言葉をつくったことで、ゴールドウインに勤めている皆さんのマインドが、より深く涵養されていった部分もあるのでしょうか。

新井 まず世の中全体にいえますが、無駄なものをたくさんつくってきてしまった過去がありますよね。GREEN IS GOODにおいても実はそうでした。展示会場に無駄に大きなブースを設け、衣類を回収するためのボックスなどの造作をつくって訴求するといったことが数年間続いたんです。それによって社内の人間を含め、人の心根にどれだけ浸透したかは判断しかねます。感覚的な部分ですからね。しかし、不要な衣類を捨てるのではなく、自ら回収ボックスに入れる行為であったり、製品ないし素材がどうやってつくられているのかといった環境配慮に関する質問が、お客さまから増えたのは事実です。社内に限っていうと、素材の循環や自分たちがつくっているもの、行動が社会的な責任という観点でどう映るのかを意識し出したのは6年前くらいからでしょうか。GREEN IS GOODを始めてから10年ほどたって、ようやく芽が出てきた印象です。

──意識が切り替わった具体的なきっかけはあったのでしょうか? 例えばSpiberとの共同研究開発のスタート自体は2015年と、少しだけ前ではあるものの、ブリュード・プロテインを用いた「MOON PARKA」の製品化が19年と考えると、切り替わりの時期とも重なっているような気もします。

新井 要因をひとつに断定することはできませんが、われわれはガーメントメーカーですから、新たな素材の出現は確かにインパクトが大きいと思います。例えば08~10年あたりに、回収したポリエステルを用いた製品に背番号を付け、将来にわたって回収可能にする動きがありました。その活動によって、当時のGREEN IS GOODにいい流れが生まれつつあったのですが、リーマンショックの影響もあり経済状況が悪化したことで、サプライヤーのプラントが廃止となり、GREEN IS GOOD自体が消滅しかけたこともありました。しかしそのとき、「やり続けることが何よりも重要」だと腹をくくりました。その覚悟が、今日における循環・再生可能な繊維や、魚網や海洋廃棄物を再利用してつくられた商品の増加につながっていることは間違いありません。素材メーカーへのリクエストや、ディスカッションを継続的に行なった結果、マーケット全体が底上げされ、素材改革が起こり、われわれの意識と合致していまに至ったのだと感じています。

GREEN MATERIAL
寿命を迎えたダウンジャケットの羽毛を再利用するリサイクルダウン、使用済みセーターなどから糸を紡いでつくるリサイクルウール。これらのリサイクル原料やSpiberとの共同開発による構造タンパク質素材ブリュード・プロテイン、さらにはオーガニックコットンといった植物由来の原料を25%以上使用した資材をGREEN MATERIALと呼称。選択肢を複数もち依存をしないことで、環境変動への柔軟な対応が可能となる。

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たとえ長く険しい道のりであっても

──GREEN IS GOODの活動を追いかけていくと、いくつか重要なキーワードが浮かび上がってきます。いまお話しいただいた内容にも関連する、環境に配慮して選定した素材「GREEN MATERIAL」、衣類を回収・リサイクルする「GREEN CYCLE」、そして製品の修理をする「REPAIR」です。GREEN MATERIAL以外の現状も、教えていただけますか?

新井 どちらも課題が多くあります。例えばGREEN CYCLEでは、回収への意識付けやきっかけづくりとして、回収を申し込まれた方にクーポンをお渡ししています。ただ、これはともすれば買い換え促進のようにも捉えられてしまうため、きっかけづくりを終えた現在は、改めて問題提起に力を入れています。

GREEN CYCLE
GREEN IS GOODにおける最初のアクションが、(2009年から取り組まれている)ブランド・質・状態を問わずあらゆる衣類を回収する「GREEN CYCLE」だった。回収された衣類のうち、例えばポリエステルやナイロン製のものは、石油からつくられた素材と同レベルの品質、純度に保つことができる化学分解技術「ケミカルリサイクル」を通してGREEN MATERIALとなるなど、不要品を循環させられるリサイクルシステムが構築されている。

もうひとつの課題が、回収したものをしっかりとは循環に回せていないという実情です。ポリエステル衣類のリサイクルはある程度できるようになってきているのですが、(綿花や麻といった)セルロース系繊維を多く含んでいる場合、分解・再生するためにいくつものルートに回す必要があり、効率がなかなか上げられない。回収実績は年々、数十%くらいずつ上がっている一方で、回収したものの効率的かつ合理的な再資源化の見通しが立っていない状況が続いています。

REPAIRについては、ギアやシューズ以外のありとあらゆるものを扱っており、年間で2万点以上の修理をするほどニーズがある、大規模化している取り組みなのですが、事業収益の側面からするとマイナスダメージであることは否定できません。

REPAIR
気に入っていた衣類の縫い目がほつれたり、生地が破れたりしたことはたびたびあるだろう。ゴールドウインは展開しているいくつかのブランドの衣類を対象に、専門の技術者による「REPAIR」サービスを行なっており、非常に人気を博している。REPAIRは衣類への愛着や機能性を維持させるだけでなく、その結果、無駄な廃棄や消費、生産を抑え、環境への負荷を抑制する一助になることを目指し、取り組まれているサービスだ。

──どれも社会的インパクトがある素晴らしい活動ですが、その反面、すぐには利益を求められないうえに、まだ大量生産できない新素材を採用することなどによって、価格へ転嫁せざるをえない面がどうしても出てしまいます。とはいえ、新井さんがおっしゃった通り、取り組みを続けていかなければ意味をなさない。そのトレードオフは難しいですね。

新井 採算性については、会社全体の事業収益をもってバランスを取ることで成り立っています。GREEN IS GOODの活動に利益を回せるよう、社内全般にわたった議論をふまえて調整をしています。GREEN IS GOODは「包括的な理念」であり、われわれの「使命」ですから、一時的に業績が悪化したからといってやめることは絶対にあり得ません。GREEN IS GOODのために、ほかの事業収益を維持する。それがゴールドウインにとっての大きな目標です。

──「目標」という言葉が出ましたが、数値面の現時点での目標だと、GREEN MATERIALを25%以上使用した製品比率を、25年までには60%、30年までには90%にすることを掲げていると伺いました。いまのところ、目標達成までの見通しはいかがですか?

PHOTOGRAPH BY MANAMI TAKAHASHI

新井 おっしゃる通り、ゴールドウインではGREEN MATERIALを25%以上使用した製品を「GREEN PRODUCT(環境配慮素材を使用した製品)」とする認定基準を設けていて、現段階でその数値は60%強まできています。今後はさらにハードルを上げていく姿勢なので、いま、ゴールを明確化することはできません。課題に直面しながらも、常に続けていく姿勢を保てれば、元々掲げていた目標どころか、30年には100%になっているかもしれないからです。ただし10年後、20年後に実際はどうなっているか、厳密な計算や予測はできません。だからこそ共通の理念のもと代替となる素材をつくり、使い続けることで、失敗からも学び、対応し続けなければならないと思っています。

自然と対峙するなかで学んだこと

──例えば自然が豊富に残る国立公園の「持続的な保護と利用」に取り組まれたり、登山道を保全・整備する活動を社内外の隔てなく積極的に企画されるなど、ゴールドウインは早くから「リジェネラティヴ(再・生成的)」であることを掲げてこられました。新井さんご自身は、自然とどう向き合っていくことが大切だとお考えなのでしょう? 「課題に直面しながらも、常に続けていく姿勢」をお聞きして、自然に加え、未知なものや変化にも富み、時にチャレンジが必要なアウトドアフィールドとの対峙の在り方を想起しました。

新井 わたしはスキーが大好きなのですが、近年の雪の少なさや降り方、例えば以前は豪雪だったところで降らなかったり、降っていなかったところで積もっていたりといった気候の変化を如実に感じています。その原因はさまざまで、地球温暖化等に起因する気候の変化や海面上昇など、いくつもの条件が複合して起こっています。要するに、ひとつの事例を取ってそれだけが問題、悪い変化を引き起こしているとは言えないわけです。

先ほどお話ししたGREEN IS GOODそれぞれの活動も答えはひとつではないですし、ゴールドウインが展開しているブランドごとの解釈もあるので、アプローチの違いがあって然るべきだと思います。目線を一定方向のみに向けず、いろいろな角度から見て、考えていく必要がある。素材をただ循環させればいいという問題ではないですし、修理をし続けるのではなく、長く愛用してもらうためにも修理しやすくつくるべきかもしれない。というふうに論点をひとつに絞らず、あらゆる事柄を複合させ、ふくよかにしていくためには、われわれの経験と発想、そして継続が欠かせません。惑わされないこと。それがわたしが自然と対峙してきたうえでの学びであり、GREEN IS GOODの活動全般に反映させなければならないことだと考えています。

PHOTOGRAPH BY MANAMI TAKAHASHI

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