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中国発の人気アプリという逆境、でも「いずれ信頼は得られる」:TikTok CEO独占インタビュー

米国ではアプリの利用禁止をめぐる法案が議会で取り沙汰されるなど、その絶大な人気によって自らの出自やその影響力にも向き合わされるTikTok。最高経営責任者の周受資は、はたしてどこに導こうとしているのか? 『WIRED』US版のカバーストーリー。
TikTok 最高経営責任者(CEO)の周受資(ショウ・ジ・チュウ)。2023年12月、アリゾナ州メサで催された同社初の音楽フェスにて。
TikTok 最高経営責任者(CEO)の周受資(ショウ・ジ・チュウ)。2023年12月、アリゾナ州メサで催された同社初の音楽フェスにて。PHOTOGRAPH: LENNE CHAI

インタビューに入る前、TikTokの最高経営責任者(CEO)の周受資(ショウ・チュウ)は騒がしくて申し訳ないと言った。その日、夕方のステージに向けてゲストたちが度々サウンドチェックを行なっていたのだ。ペソ・プルマはオープニングナンバーのリハーサルを、オフセットはバッキング・トラックに合わせてアドリブをしていた。会場の公園に入るときにはワン・ダイレクションのファンの群を通り過ぎた(ニール・ホーランを25ドルで観られるなんてお得だ)。世界で最も影響力をもつソーシャルメディアアプリのトップに、こういう場所で話を聞くことになるとは思わなかったが、TikTok初の音楽フェスの当日を除いて、周のスケジュールに空きはなさそうだった。アリゾナ州メサ、シカゴ・カブスのトレーニング施設で開かれる、二部構成のフェスのチケットは完売していた。

TikTokにとって場所が重要でないことがわかれば、イベントの開催地をここに決めた意味が理解できる。同社にとって、大事なのは数字のみ。フェスの模様はアプリで無料独占配信される予定になっていた(その後ハイライトがDisney+とHuluで公開される)。今夜、スマートフォンのスクリーン左上に表示される数字が、このイベントの成功/失敗を示す最終的な指標になるだろう。

今日ここに来たのは、周がこれまで自分の言葉で自らの気持ちを語ったことがないんじゃないかと思ったからだ。2021年半ばにTikTokのCEOになったとき、彼はほとんど注目されなかった。TikTokの公式アカウントさえ、CEO就任を動画で発表しなかった。そんな周が世間の関心を広く集めたのは、23年3月にワシントンD.C.で開かれた議会公聴会で質問攻めにあったときだ。「大騒ぎでしたよ」。ある社員は匿名を条件にそう語った。「議員たちは彼に話すらさせなかったんですから。『おまえは中国のスパイだ。叩きのめしてやる』みたいな態度で」

あからさまな反中嫌悪

これは少々大げさだが、そういうムードがみじんもないとは言い切れない。以下に挙げる3つの事柄すべてが真実の可能性があるからだ。第一に、中国政府は市民を公然と監視しているので、多くの国々、とりわけ22年末に親会社の字節跳動(バイトダンス)によるジャーナリストの不正監視が発覚した米国で、中国発祥のアプリが警戒の対象になるのはもっともであること。第二に、人々は長年Uberやフェイスブック(両社ともジャーナリストのデータを不正に追跡していたと報じられた)などの企業に多くのデータをわたしており、大量のユーザーデータを集めているいかなる企業も厳重な精査を受けるべきであること。第三に、あからさまな反中嫌悪が確実に米国の政治戦略の一部になっていること。

TikTokはこれまで、最初のふたつの問題に対処していることをアピールしてきた。公聴会で周は、同社が保持する米国のデータを米国内のサーバーにすべて移すと約束したが、TikTokの社員によれば一部の米国のデータは未だに親会社と共有されているという。ひいき目に見ても、周の約束が完全に実行されるのに時間がかかっている。3つめの問題はTikTokがどうこうできるものではない。例えば「モンタナ州の人々の個人情報を中国共産党から保護する」ために州内で同アプリの利用を禁止したモンタナ州知事から見て十分なほどに、TikTokアプリが「中国に無関係」なものになるとは想像しにくい(その後連邦地裁は禁止法の施行の仮差し止めを命じた)。

その気性からするに、周はTikTokをさまざまな国で好ましく思ってもらうにはうってつけの人物のようだ。「テック業界人」にありがちな不快な押しつけがましさがなく、むしろ永遠の町長選立候補者のような庶民的な雰囲気を醸し出している。ハンサムなうえに、どんな人の話でも誠実に聞いてくれそうだ。ゴシップを賑わすラッパーのカーディ・Bは知っていても、イベントに着ていくブレザーの仮縫いの白糸を事前に取っておくなんてことには気が回らないような、チャーミングなイメージがある。

会話が危うい方向に向かいそうになると、すぐに周はTikTokに都合のいいユーザーの話にもっていく。どこかのユーザーが一晩で何人フォロワーを獲得した、ショップがバズって、商品が何個売れたといったような話を、巧みに早口でまくしたてるのだ。たくさんの人の顔と名前を覚えていて、実際に小規模事業者のもとに足を運んでもいる。そのうえ周(または彼の広報担当チーム)は、TikTokを活用して大成功を収めた地元のAZタコ・キングから、インタビュー中にタイミングよくタコスが届くよう手配してくれてもいた。

子どものころ誰を尊敬していたか尋ねると、周はミュージシャンでもスポーツ選手でもなく、母国であるシンガポールの初代首相、李光耀(リー・クアンユー)の名を挙げた。李首相は、31年の在任期間にシンガポールを貧困国から経済大国に押し上げた功績が広く称えられている。李はまた、「慈悲深い独裁者」とも呼ばれている。一部の政治家が目標にしているというならわかるが、自撮りダンス動画からスタートしたソーシャルメディア会社のトップが李に憧れているとは、ちょっと意外だ。

世界のポップカルチャーを変えたアプリ

だが、はっきりさせておこう。TikTokはもう、ほかのソーシャルメディア企業、とくにイマージョン(没入)を成功指標にしている企業を相手に闘っていない。この点、TikTokは他のアプリに大きく水をあけている。Xは広告主を追い払っているが、TikTokは広告主を平等に扱う。メタ・プラットフォームズは創造し、働き、買い物し、遊べるメタバースの実現を謳ってきたが、それはすでにTikTokに存在している──ヘッドセットも不要だ。YouTubeは動画投稿サイトとしては優れているが、動画の作成となるとそうはいかない。TikTokなら動画を投稿できるだけでなく、自社の編集アプリがプロ用の高価なソフトウェアに匹敵するほどの性能をもっている。

ユーザーたちのあいだでは、TikTokを離れてほかのアプリに移る必要はないという気運が高まっている。となると、TikTokが本当に闘う相手は、同社が事業を展開している地域の政治だ。そして周の最新の戦略はバーチャル、リアルの両方で言葉を発信していくことのようだ。バイトダンスはロビー活動に数百万ドルを投じているが、周もまた魅力攻勢を強め、自身のアカウント(@shou.time)で動画を作成し、どれだけこのアプリを愛しているかを積極的に発信するようユーザーに促している。

正直に言うと、わたしはTikTokアプリの初期ユーザーだった。公開されてすぐにダウンロードしたのだ。アプリを活用してポジティブな影響を与えるティックトッカーを取材したこともあるし、地域の天気をネタにした内輪のジョークであれ、投獄された人々を巡る人情味溢れるストーリーであれ、たったひとつの投稿で人生が様変わりした人たちも知っている。そうしたユーザーのなかには、TikTokの有名人でいることに不安を感じている、アルゴリズムに罰せられないように同じタイプの動画ばかりいくつもつくらざるをえない、と語る人もいる。

そんな話を聞くたびに、不思議に思う。周がTikTokのセキュリティ慣行に関して圧力をかけられているのは確かだが、その一方で世界のポップカルチャーがいかにTikTokアプリに依存するようになったかについて、彼が多くを語ってこなかったのはどういうわけなのか、と。TikTokが食べ物や音楽やファッションといった文化体験に大きな影響を及ぼし続けている以上、わたしたちはその点を考えなければならない(ユニバーサル ミュージック グループ[UMG]はTikTokとのライセンス契約を更新しないと発表した。テイラー・スウィフトやドレークなどのアーティストの楽曲はTikTokから消えることになる)。

文化の進む方向を後戻りできないまでに変えたとはいえ、だからといってTikTokがこれからも恩恵を受け続けることが保証されているわけではない(インドはずいぶん前にTikTokアプリの使用を禁じていて、そのほかのいくつかの国も監視を強化している)。これまで政治的に極めて危ない橋を渡ってきたTikTokだが、PRのやり方を間違えればおしまいになるだろう。だから、かつて米国の政界で働いていたTikTokの最高コミュニケーション責任者(CMO)は、わたしと周との会話を彼女のスマートフォンで録音するところをあえて見せつけたのかもしれない。

もちろん、そこまで過保護になるのも驚くには当たらない。TikTokは、シリコンバレーのほかのCEOに引けを取らないくらいに巧みな駆け引きが周にできるとは考えていないのだ(例えば、マスコミに痛烈な皮肉を言うなんて、彼には一生無理だろう)。周はむしろ穏やかな福音主義を選び、人々がアプリにチャンスを与えさえすれば、彼のウォールドガーデン[編註:プラットフォームやエコシステム内の閉じられた環境。クローズドプラットフォームとも]における状況は改善していくと語る。わたしたちがコンテンツをたくさんつくれば、そのガーデンはもっとよくなるだろうと言うのだ。

※インタビューは長さと明確さを考慮して編集されている。

周受資:新しい街に行ったら必ずクリエイターに会うようにしています。そしてそのTikTokアカウントをフォローします。そうやって友人同士のようにメッセージを送ったり、連絡を取り合ったりしています。

──いいですね。

すごく楽しいですよ。[スマートフォンを取り出して]フォローしてください。アカウントは「@shou.time」です。わたしもあなたをフォローしますから。

──オーケー。

これがあなたのアカウントですね? [わたしの最初の投稿を読んで]おや、「これはひどいアプリだ」ですか。

──まあ、当時は「Musical.ly(ミュージカリー)」[編註:音楽動画作成アプリ。18年にTikTokに統合された]のユーザーが多くて、好きではなかったですね。考えは変わりましたが。

この投稿には2件しかコメントがありません。オーケー、もっと投稿しましょう。

──そうします。ところで、今日はアリゾナ州メサでTikTok初のライブが開かれます。なぜメサなんですか?

この時期の天候がすばらしいからです。

──なるほど。でもどうして、ロサンゼルスでも、ニューヨークでもないんですか? 今回はソフトローンチで、うまくいくか見極めようといったところでしょうか?

初めてやるときは、期待が大きすぎてはいけませんよね? 大事なのはイベントがスムーズに運ぶことです。肝心なのは、オフライン、オンラインで、いかにテクノロジーを最大限に活用するかです。

──「メットガラ」のスポンサーにもなるとか。

ええ。

──その理由は?

やらない理由がありません。プレスリリースは読みましたか? メットガラは実に文化的なイベントです。ファッションはTikTokにとってますます重要な要素になっています。ルイ・ヴィトンのアカウントには1,200万人のフォロワーがいます。

──あなたの人となりは、世間にあまり知られていないと思います。TikTokの話はひとまず置いておきましょう。周受資とはどんな人物ですか?

わたしの話ですか? シンガポールで生まれ育ちました。曾祖父がずいぶん前に移住したんです。ごく普通の子ども時代を過ごしました。シンガポールはすばらしい所ですが、小さい国ですから、世界を見たいと思いました。それで英国の大学に進学し、ゴールドマンサックスに就職して数年働きました。そのとき、ベンチャーキャピタルを立ち上げてフェイスブックに投資したインターネット起業家と出会ったんです。彼の会社に入り、バイトダンスの創設者と知り合いました。初期の彼のアイデアはごくシンプルでしたが、強烈なインパクトがありました。12年に彼に出会い、それから……[ドアが開いて、カップルが入ってくる。AZタコ・キングのオーナーだ]

タコ・キング:お話中すみません。タコスをお届けに来ました。

:こんにちは! お会いできてうれしいです。フェニックスにいるときには必ず立ち寄る約束でした。届けてくれてありがとう。食べるのを楽しみしていたんです。「TikTok Shop」[編註:TikTokアプリ内で商品を販売・購入できるEコマース機能]は使ってみましたか?

タコ・キング:いま頑張っているところです。ちょっとしたトラブルがありまして。それにものすごく忙しいものですから。

:それはよかった。困ったことがあれば、弊社のチームにご連絡ください。[わたしのほうを向いて]すみません。召し上がりませんか? おいしそうですね[ふたりでタコスを食べた。とてもおいしかった]。

──子どものころ、テレビゲームで遊びましたか?

ずいぶんやりました。いまでもやりますよ。

──本当ですか? どんなゲームを?

「クラッシュ・オブ・クラン」です。先日は「ディアブロIV」をやりました。

──よく起きていられますね?「ディアブロIV」をしている友人たちには、しばらく会っていません。

そのうち、自分のペースでうまくできるようになります。最初に任天堂のセットを手にしたのが、確か5歳くらいのときでした。そのすぐあとに初めて286コンピューターを手に入れて。80年代の生まれですから──。

──同い年です。

同い年ですか。それなら、おわかりでしょう。生まれたときは、すべてがアナログでした。電話機にまだカールコードがついていたのを覚えていますか? ビデオゲームはそのころ発明されました。つまり、デジタルネイティブとして育ったわけです。

──あなたもわたしもどちらかといえばデジタルに強い、と言ったほうがいいでしょうね。ネイティブではありません。インターネットが発明される前の時代を知っていますから。ネイティブと言えるのは、わたしたちより若い世代です。

わたしは自分をネイティブだと思っています。初めてネットにダイアルアップ接続したときのことを覚えています。あの音を覚えていますか? 初めてオンラインになったときのことは忘れません。とても鮮明に記憶しているんです。

──ネットにつながって、何をしましたか?

そうですね、何か検索したんじゃなかったかな……最初に、好きなアーティストやミュージシャンを検索したと思います。シェリル・クロウでした。

──シェリル・クロウですか?

あのころ人気でした。

──せっかく音楽フェスにいるのですから、音楽の話をしましょう。子どものころほかに何を聴いていましたか?

90年代は、ラジオが最も重要な配信チャネルでした。音楽との出合いといえばほとんどがラジオで耳にする楽曲でした。

──お気に入りのアーティストはいましたか?

グリーン・デイが大好きでした。90年代のバンドです。

──そうですか。あなたが音楽業界におけるTikTokをどう見ているかに興味があります。TikTokで一夜にして人気が爆発したミュージシャンがいます。一方で、「レコード会社がTikTok動画をつくれとうるさい。前はアルバムに集中できたのに。何でもかんでも15秒の動画に収めなければならない」と公に発言したミュージシャンもたくさんいます。あるいは、歌のなかにバズりそうな要素を盛り込まねばとプレッシャーを感じているとか。

推奨アルゴリズムの主な役割は、楽曲を見つける障壁を低くすることです。それ自体が最も根本的かつ強力な変化だと思います。以前は、すごくいい歌ができたとしても、はっきり言って多くの人々に聴いてもらうのは難しかった。それがいまでは、つくった曲をTikTokに投稿しただけでバズった例はいくらでもあります。発見のための障壁を低めることで、わたしたちは業界にネットポジティブ[編註:最終的に社会に与えるよい影響が悪い影響を上回る、差し引きプラスの状況のこと]をもたらしています。

──あなたがしていることはネットポジティブだと考えているのですね?

もちろんです。その結果、新たな才能が市場に参入しています。そこには素敵な歌があります。作品を多くの人に聴いてもらえる可能性は、いまではとても大きくなっています。

──「Video Killed the Radio Star(ラジオ・スターの悲劇)」という歌がありましたね。話をしていて思い出しました。思うに、かつては音楽の才能があればそれでよかった。ミュージックビデオの時代が来て、才能に加えて外見のよさも必要になった。そしていまのTikTokでは、才能があって見目麗しく、なおかつソーシャルメディアに精通していなければならない(または詳しい人と仕事をする)。あなたはTikTokが障壁を低くしていると言いました。では、TikTokが音楽をダメにしていると話すアーティストについてはどう考えますか?

わたしはそうは思いません。ソーシャルメディアに精通していなければならないとの指摘ですが、実際にはそんなことはありません。TikTokで売れ出した歌を見てみれば、いくつか例をお見せしましょう。ポール・ラッセルのやり方を知れば……

──もちろん、それによって成功した人たちのことも見てきました。

いいですか、このようなTikTok動画をつくるのに、それほど高いコストがかかるわけではありません。楽曲を15秒にカットしたと言いますが、たいていはそのおかげで人々はそれがどんな曲か知りたいと思うのです。ですから、集中力の持続時間を完全に短くしているとは言い切れないと思います。TikTokで人気が出た多くの歌は、その後ビルボードチャートやラジオで本物のヒット曲になります。そういう例はいくらでもあります。ゲイルも昨年大ヒットしました。「abcdefu」をご存じでしょう? 現代の消費者がものを消費する方法は昔とは違っています。当然、消費者が求めている新しいやり方に合わせなければならないわけですが、全体を見れば、それによって創造性がいっそう解き放たれていると思います。TikTokの影響を受け、音楽産業は以前よりも活況を呈しています。

──それがカギではないかと。いまおっしゃった、「しなければならない」という言葉が。この新しいプラットフォームがあるのだから、ミュージシャンもアーティストもそれに合わせなければならない。つまり新しい規範なわけです。しなければならない、のですから。

TikTokのCMO:[途中で口を挟む]しなければならないわけではありません。

:ミュージシャンの多くはそうしています。現にカーディ・Bは今日のイべントに出る予定です。彼女はみごとにTikTokを使いこなしています。この1年で何度かTikTokでキャンペーンセッションを行なって、大成功しています。チャーリー・プースも同様です。彼も今日歌います。彼はどのようにして曲をつくるかを公開しています。驚くべき才能の持ち主です。

──すばらしいですね。

楽曲がどのように生まれてくるかを、ファンは知りたがります。思考のプロセス、創造のプロセスを知りたいんです。このことは重要です。過剰につくりこまれた曲は求めていません。求めているのは、正真正銘、本物の曲です。TikTokで重要なことのひとつは、コンテンツの大半、わたしがいま話したすべてが、間違いなく本物でなければならないことです。楽曲を過剰に磨きたて、外見だけ飾り立てようとすれば、あれほど有機的なものにはなりません。人々はそれを見抜くでしょう。

──どちらの考えもわかります。わたしは「ファンは本物を求めているが、望んでいるのはこうした特定の種類の“本物“だ」と言って、レコード会社が圧力をかけるという話も確かに耳にしています。それがプレッシャーになるんです。あるミュージシャンが、もしあの時代にTikTokがあったら、レディオヘッドは世に出なかっただろうと主張するのを聞いたことがあります。トム・ヨークは異色の存在です。彼がTikTok動画をつくり、「やあ、みんな、この歌ができるまでの音楽の旅に付き合ってくれ」なんて言うとは思えません。

古い歌のことを言っているのでしたら、やはりTikTokには多くの事例があります。何年か前のオーシャン・スプレー・ガイ[編註:20年9月、アイダホ州の男性がオーシャン・スプレーのジュースを飲み、フリートウッド・マックの「Dreams」に合わせて口パクしながらボードに乗って道を走っているTikTok動画が爆発的に拡散した]は覚えていますか?

──はい、いましたね。

何の曲でしたっけ?「Dreams」。フリートウッド・マックの。あの動画がバズったおかげで、再びチャートインしました。

──でもあれはまったくの偶然です。予測するのは不可能です。

感性です。あのできごとには、当時の、文化的時代精神の感性が表れています。こういうことの多くは、意図してやれるわけではありません。自然に発生するものです。プラットフォームであるわたしたちの役割は、窓、キャンバス、人々をつなぐための橋の3つを提供することです。これら3つは自然に発生するでしょう。例えば、本についての情報を共有するコミュニティである「BookTok」ですが、その再生数は2,000億回です。科学のコンテンツを共有する人たちもいます。多様なものがうまく調和した世界。それをわたしたちは実現しようとしています。世界には才能のある人々がたくさんいて、わたしたちは多くの人たちが共同で利用できる場所を開放しただけです。創造性で抜きん出るには、あのような競争力、アイデアの競争力が必要でしょうね。

──音楽はタフなビジネスです。あるアーティストの投稿なんですが、もはや皮肉同然のジョークです。「やあ、Spotify(スポティファイ)で100万ストリーム突破したよ。みんな、ありがとう。ブリトーを買いに行くよ」。誰かがお金を儲けているはずですが、それはアーティストではなさそうです。アーティストが作品をつくり続けられるようにするのに、TikTokはどんな役割を果たしていますか?

すばらしい質問です。わたしたちは常にミュージシャンはじめクリエイターやユーザーに土台とつながるためのツールをもっと提供したいと考えています。こうしたイベント──ついでに言うと、わたしはものすごくわくわくしています──を行なうのは、出演者のパフォーマンスがすばらしいからというのもありますが、それだけでなく、ライブストリーミングが重要だと考えているからです。アプリを通してもっと多くの人にオンラインでリーチできると確信しています。

──ライブよりも?

オフラインよりも、ですね。大きな違いです。TikTokで新しい歌を見つけたことはありますか?

──いくつか。はっきりと覚えているのは1曲です。ですが、確かそれでアーティストの懐が潤ったわけではなかったと思います。

現在、アップルなどと提携できる新たなツールも開発中です。当初は発見の可能性にフォーカスしていましたが、それが定着してきて、いまはアーティストが収益化の機会を見つけられる、例えばApple Musicに直接つながるといった、新たなチャネルを構築しています。

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──すべてのソーシャルメディア・プラットフォームのなかで、TikTokはまさにいまスポットライトを浴びています。それはなぜだと思いますか?

わたしたちは最も若いプラットフォームのひとつです。最近世に登場したばかりで、それまでになかった発見の可能性を提案しています。どんな企業も信頼を得なければなりません。成長を続け、ユーザーやそうでない人を含め、ますます多くの人がプラットフォームを見るようになっているのですから、信頼を勝ち取らなければなりません。注目を集めているいまが、わたしたち自身を正しく知ってもらうチャンスだと思います。

──議会公聴会の話題を蒸し返したくはないのですが、主な論点は、言うまでもなく中国でした。中国、中国、中国。TikTokの多くのファンはそれを不当だと感じ、揶揄する動画を投稿していました。あなたが質問に答え、困惑する様子を編集した動画は観ましたか?

ええ(笑)。

──どう思いました?

公聴会に出る、ということが重要でした。質問に答えることが重要でしたから、そのように努めたつもりです。でも、その一部が切り取られてミームになるとは、思いもよりませんでした。

──TikTokは家庭用Wi-Fiにつながるのかなどと訊いてくる政治家は、人々に滑稽に映るだろうとどこかで感じていましたか?

いえ。わたしは真面目に質問に答えようとしていました。

──生まれた国を理由にTikTokだけがことさら厳しく監視されるのを、不公平だと感じたことは?

多くの点で、そう感じます。信頼が大半の企業に比べて大きく欠けているのが理由のひとつです。スタートラインからして、他の企業に後れを取っていると言ってもいいでしょう。ですが、信頼を得てそのギャップを埋めるために、わたしたちは真剣に取り組んできました。議会公聴会でもお話したので、ご存じでしょうが、そうした取り組みはすべて公開しています。わたしたちは社会の懸念に対処するためのプロジェクトを立ち上げました。実際のところ、問題の理解に多くの時間をかけました。データ監視についての懸念がありました。コードの透明性についての懸念もありました。話し合うだけでなく、実際に行動に移してもいます。全データをサードパーティ環境であるオラクルのサーバーに保管するようにしました。こうした環境は前例がなく、わたしの知る限りほかのどんな企業も構築していません。これらの問題すべてに根本的に対処すれば、いつか信頼は得られるはずです。

──信頼と言えば、モデレーション(投稿監視)についてはどうでしょう。基本、どんなアプリにも不快な投稿はあります。世の中、嫌なことだらけですから。

確かに、本当にひどいことも人々は投稿しようとします。

──それに対し、ほかのアプリよりうまくいっている対策は何かありますか?

ほかと比べてどうだというのではありませんが、コンテンツの監視に有効なテクノロジーのみならず、ポリシーやコミュニティガイドラインの改訂にも、かなりの額の投資を行なってきました。コンテンツモデレーションに力を貸してくれる人材も多く集めてきました。数多くのエキスパートとともに取り組んでいます。

──Algospeak(アルゴスピーク)[編註:不適切な表現を削除するアルゴリズムを回避するために、コンテンツ制作者が用いる独特の言葉や婉曲表現のこと]はご存じですか?

はい、聞いたことはあります。もちろん。

──どう思われますか?

技術的には難しい問題です。しかし、テクノロジーの進化とともに克服できると信じています。楽観主義者ですので。

──アルゴスピークが存在するのには、もっともな理由があるとわたしは考えます。こんな例があります。[あるTikTok動画を周に見せる]。この人物はイスラエルとパレスチナの紛争について話しています。TikTokはこの手の発言を許さないはずだと考える人たちが、動画が削除されないように、「役立つヒントをありがとう」、「すばらしいレシピだ」といったコメントを残し、この動画を実際とは異なるカテゴリーに分類するようアルゴリズムを誘導します。アルゴリズムをだまそうとする人がたくさんいるのかもしれません。

重要なのは、これからもすべての人にとって安全かつインクルーシブなコミュニティを維持していくことです。ガイドラインに違反しない限り、ユーザーには自分を表現する自由があります。おわかりのように、これは極めて複雑な役割で、信頼・安全性担当チームが常に調査を行なって、プラットフォーム上のコンテンツがルールに違反していないかどうか確認しています。

──お聞きしたいのは、絶えず何かを出し抜こうとする文化が生まれたという事実についてのお考えです。

ルールがある限り、それをすり抜けようとする人はいるものです。本当に重要なのは、わたしたちが目指していることの意図が十分に理解されるようにすることです。そしてその意図とは、「わたしたちは創造性と喜びを生み出すプラットフォームの確立を目指す」ということです。

──しかしそのために、クリエイターもコメントする側も自分たちが検閲とみなすものをうまく逃れなければと考えます。

そうですね。

──それについてご意見は?

あなたが言わんとしていることを、正しく理解する必要があります。まず、「検閲を逃れる」とはどういう意味でしょうか? 例えば実際にヘイトスピーチをしていて、それがプラットフォームの意図に反しているとすれば……

──この場合、そうでないと仮定しましょう。「ねえ、これすごく大事だと思う。みんな、何が起きているか注目すべきだよ」と発言した人がいるとして、でも、そうした話をTikTokは好まないんじゃないかと人々は感じている、といった状況です。

なるほど、でも、何をするか、何をしないかに関しては、明確なガイドラインが定められています。抜け穴を見つけようとする悪い連中が少数いるというなら、それを阻止するのがわたしたちの役割であることに変わりはありません。TikTokのルールを理解していない人が多いとおっしゃっているのだとしたら、そんなことはないとわたしは思います。

──この場合、人々がルールを理解していないことが問題なのかはわかりません……

TikTokのCMO:異議申し立てができます。

:そう、異議を申し立てることができます。

──例えば、ニュースメディアは往々にして、「Somebody was killed(誰かが殺された)」といったような表現を、それが事実であっても避けなければなりません。信頼のおける報道機関が特定の言葉の使用を避け、「unalived(生きていない)」などの婉曲表現を使うことさえあります。それは別に悪いことをしているわけではありません。ただ伝えようとしているだけです。

なるほど、質問の意味がわかりました。ご存じのように、TikTokが非常に真剣に安全性を最優先しているのは明らかです。慎重さを優先するあまり、時に過保護になったり、間違ったモデレーションの判断を下したりする可能性はあります。警戒しすぎて削除したケースもあります。モデレーションの適切な実行が極めて重要です。その結果、違反率が下がるだけでなく、起こりがちな過剰なモデレーションも減ります。そうした犠牲は仕方がありませんし、正しいバランスを見つけなければなりません。具体的な言葉として、「kill(殺す)」や「death(死)」がコンテンツモデレーションが作動するきっかけになるとおっしゃいました。最初は慎重を期して削除されますが、異議申し立てをすれば、……ユーザーにとっては気分のいい経験ではありませんね。その点は理解しています。それがガイドラインの目的についてユーザーに誤ったイメージを抱かせています。

──とりわけ、多くに支持されていない、少数派の意見は受け入れられないという印象を多くのユーザーに与えていると思います。

はっきりさせておきたいのは、コミュニティガイドラインはわたしたちが何をよしとし、何をよしとしないのかを網羅する包括的なものだということです。わたしたちのモデレーションのやり方を人々が理解するには時間がかかるでしょう。ポリシーも同じく包括的なもので、それに基づいてモデレーターは務めを果たしています。モデレーターに仕事をしてもらうためには何かを与える必要があり、それがガイドラインというわけです。すべてはそこから派生しています。

──長尺動画への移行の話をしましょう。TikTokでは、多くの人が生計を立てていたクリエイタープログラムが終了しました。現在は1分以上の動画にのみ報酬が支払われています。短い動画の作成に非常に長けているクリエイターがいますが、そのスキルセットではもう収益は得られません。「わたしたちのおかげだ、わたしたちが現在のTikTokをつくったんだ。それなのにいまさらルールを変えるなんて」と感じているクリエイターには、どう説明しますか?

この5、6年のあいだにつくられたすばらしいUGC[ユーザー生成コンテンツ]を見たいユーザーはたくさんいます。そのことに変わりはありません。ただ、ユーザーが増えるにしたがって、新しいものに対する要求は多様化していくでしょう。そのため、少し長めの動画作成をすすめているのです。既存の動画の価値が下がるわけではありません。なぜならそれが推奨エンジンの仕組みだからです。完全体にさらに近づくだけです。

──報酬が支払われるのは、長い動画のみですね。

長い動画のほうが作成に時間を要しますし、UGCプラットフォーム上のほかのものと比べ、相対的に小さな領域だからです。ただ、わたしたちはいつも前に進むことを考えています。はっきり言えば、お金を得ることが目的のユーザーばかりではありません。

──もちろんです。

でも、機会を追求したい人たちのために、挑戦できる場をいろいろ設けてきました。ライブストリーミングがそのひとつです。

──そうですね。

言うまでもなく、こうしたフィードバックをわたしはとても真剣に受け止めています。軽んじるつもりはありません。いま言いたいのは、あなたの意見を聞いて、何かを軽く扱うためのプログラムを立ち上げるなどというミスをしないことが重要だと考えている、ということです。そういうことではないのです。いつもわたしたちとともにあり、ダンスや歌の魅力的なコンテンツを数々生み出すコミュニティ、これがわたしたちのすべてを支えています。支えになるのはそれが創造性と喜びを与えてくれるからです。その基盤がいかに大事か、ユーザーに可能な限り最高の経験を与えることをいかに心の底から大切に思っているか、いくら強調しても足りません。

ところで、多くの国々でわたしはたくさんのクリエイターに会ってきました。フランス、英国、米国、インドネシア、シンガポール。カザフスタンでも。どこの国にも17年、18年、19年からずっとTikTokを利用しているユーザーが必ずいます。社内のすべての仕事において、そうしたユーザーに対し、TikTokにとってあなたはこの上なく重要な存在で、それを犠牲にして何かをやり遂げようとすることはないと断言したいと思います。

──実を言うと、ダンスと聞いて思い出したことがあります。アリババ(Alibaba)のリサーチャーが、TikTokで人気のダンス動画から抽出したデータを使用し、その情報を使ってエンジンを構築したと伝える文書を発表しましたが、見ましたか?[周は困惑した表情を浮かべる]。おっと、見ていないんですね?

見ていません。

──ならぜひ見るべきです。

オーケー。

──アリババのリサーチャーはダンスをするティックトッカーの動画からデータセットを抽出し、それを使って絵や写真をアニメーションにできるエンジンを構築しました。ユーザーは自分の制作物によって人気を得て、あなたのプラットフォームにたくさん動画を投稿してきました。それなのに、外部の企業があなたのプラットフォームからデータを引き出しているんです。

とはいえ、公開されたデータですから。

──そのとおりです。でも、自分のダンスをほかの誰かのデータセット内で使われるのは絶対に嫌だという人は多いはずです。

それは誰かの私的なトレーニング用に使われる公開データをどう扱うかという、複雑なトピックだと思います。このことにはとても注目しています。ご存知のように、このテーマに関しては何度も議論が行なわれています。それに対していまここで見解を述べることはしないでおきます。持ち帰って徹底した調査をする必要があります。これからも議論を続けていくべきトピックですから。

──アプリにアップロードしたコンテンツはこのプラットフォーム上でのみ使用され、第三者によって抽出されることがないよう、ユーザーを守ることはできますか?

それについても調べなければなりません。

──わかりました。

以前は何かを公表したら、それは公知の事実になりました。世に出てしまえば。

[注:インタビューのあとで、広報スタッフがわたしをTikTokのセキュリティ責任者に引き合わせ、データ抽出の件を改めて話してほしいと頼まれた。セキュリティ責任者も初めて聞く話とのことで、お礼を言われた]

──時間が限られていて、コンサートももうすぐ始まりますから、もうひとつだけ。あなたは、アプリや事業のやり方に対する多くの批判に答えなければなりませんでした。あなたから見て、人々がTikTokに抱いている最大の誤解は何だとお考えですか?

理解の差がいちばん大きいのはユーザーと非ユーザーです。それが最大のギャップです。

──そうなんですか?

ええ、そうです。ユーザーに会うといつも、TikTokを使ったことがない人と比べて、理解レべルや話す内容がずいぶん違うものだと感じます。実際に使っている人はよく理解しています。

デクスター・トーマス | DEXTER THOMAS
ドキュメンタリー映画製作者、教授。日本のヒップホップの研究でPhDを取得。ロサンゼルス在住。

(Originally published on wired.com, translated by Takako Ando, edited by Michiaki Matsushima)

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TikTokの動画作成で選べる音楽カタログから、テイラー・スウィフトやビリー・アイリッシュなどの有名アーティストの楽曲が選べなくなった。音楽への対価やAI利用に関して、TikTokとユニバーサル ミュージック グループとの交渉が決裂したのだ。

雑誌『WIRED』日本版 VOL.52
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ファッションとはつまり、服のことである。布が何からつくられるのかを知ることであり、拾ったペットボトルを糸にできる現実と、古着を繊維にする困難さについて考えることでもある。次の世代がいかに育まれるべきか、彼ら/彼女らに投げかけるべき言葉を真剣に語り合うことであり、クラフツマンシップを受け継ぐこと、モードと楽観性について洞察すること、そしてとびきりのクリエイティビティのもち主の言葉に耳を傾けることである。あるいは当然、テクノロジーが拡張する可能性を想像することでもあり、自らミシンを踏むことでもある──。およそ10年ぶりとなる『WIRED』のファッション特集。詳細はこちら