“TikTok禁止法”がクリエイターエコノミーに衝撃をもたらしている

TikTokの米国での運営禁止につながる“TikTok禁止法”は、動画から収入を得ているクリエイターや企業、インフルエンサーなどに衝撃をもたらした。プラットフォームに依存するクリエイターエコノミーの先行きは、今回の動きで不透明になりつつある。
People holding up signs which read TikTok helped me grow my business and KeepTikTok outside on a sunny day with a clear...
ワシントンD.C.の連邦議会議事堂前で、TikTokを支持するボードを掲げる人々。2024年3月12日に撮影。Photograph: Anna Moneymaker/Getty Images

米国におけるTikTokの運営について、中国の親会社であるバイトダンス(字節跳動)との分離に向けて意味のある進展が見られなければ、1年以内に米国政府が禁止できる法案を連邦議会が可決した[編註:この法案にはジョー・バイデン大統領が4月24日に署名し、正式に法律として成立した]。

今回の“禁止法”で影響を受けるTikTokは、米国でTikTokの禁止に向けた最初の試みがあった2020年当時と同じものではない。このとき当時のドナルド・トランプ大統領は、中国とのつながりが国家安全保障上の懸念であることを理由として掲げていた

それ以降、TikTokとそのユーザー基盤、さらにTikTokで生計を立てるクリエイターのエコシステムは成長し、変貌を遂げ、円熟している。アプリが消滅した場合の影響は、さらに深刻なものになっているのだ。

米国におけるTikTokのユーザー基盤は、数年前よりはるかに年齢が上がっている。ショート動画を投稿できる場所はTikTok以外にも増えた。そしてインフルエンサーとしての活動歴が長い人の多くが、TikTokを批判するワシントンD.C.の住人と闘争しようとする時期があまりに長引き、うんざりしていると語っている。

一方で、TikTokに経済的に依存する米国人も増えている。ネット通販に照準を合わせた動画で生計を立てている、フォロワー数の少ない新種のクリエイターもいるのだ。

インフルエンサーに衝撃

TikTokを標的にする法案が4月23日に連邦議会の上院で可決される数時間前、インフルエンサー業界で働くクリエイターなどの人々に取材した。これらの人々は、法案が成立すると数万人以上の米国人が収入を得る手段を危険に晒され、憤慨するだろうと語っている。

「わたしにとってTikTokは生計手段であり、子どもを扶養する方法です。わたし以外の多くの人にとっても、子どもを扶養する方法になっているのです」と、ペンシルベニア州在住のTikTokクリエイターのオーブリーは言う。彼女は「Makeupfresh」というハンドルネームで投稿しており、プライバシーを理由に記事ではファーストネームのみの表記を希望している。オーブリーによると、本人も知り合いのクリエイターたちも、今年11月の総選挙ではTikTok禁止を支持した議員の対立候補に投票するつもりだという。

インフルエンサーマーケティングのプラットフォームを運営するFohrの創業者のジェームズ・ノードは、TikTokの消滅は多くのクリエイターにとって「絶滅に等しいくらいの出来事」になると語る。「ほとんどの人は、持続可能な水準の多数のフォロワーをほかのプラットフォームにはもっていません。TikTokのフォロワーをInstagramに移行させることはできないでしょう」

4月23日の上院での可決は、前の週末に下院が950億ドル(約14兆7,000億円)の大規模な対外支援パッケージを圧倒的多数で可決したことで勢いを増した。このパッケージには、今回のTikTokへの対策も含まれている。

ウクライナ、イスラエル、台湾に資金を提供するこの法案は、先週のイランによるイスラエルへの報復攻撃を受けて急進展した。「The Information」の報道によると、23日に超党派の支持を得て79対18で上院を通過したこの法案は、TikTokなどからの重大な訴訟に見舞われる可能性が高い。

なお、TikTokにコメントを求めたが回答はなかった。TikTokは20日にロイター通信に向けた声明で、「1億7,000万人の米国人の言論の自由を踏みにじる禁止法案を再び押し通す目的で、下院が重要な対外援助と人道支援を隠れみのにしている」と、議員たちを非難している

インフルエンサーマネジメント会社のDiversifi Talentの創業者であるプラスナ・チェルクによると、仕事で付き合いがあるベテランクリエイターの一部は禁止法案が実際に可決されるとは考えていなかったが、政治的な動きとTikTokの変化によって、このアプリに幻滅を覚えるようになった人もいるという。

米国経済の日常風景になったTikTokクリエイターたち

ティーンエイジャーがダンスや口パクをする動画は、かつてTikTokで最も人気のジャンルのひとつだった。それがいまでは、ライフスタイルやショッピングのコンテンツに逆転されている。その結果、TikTokの最初の波の一翼を担ったインフルエンサーたちが、かつてと同じ規模の視聴者を集められず苦労している。

シンクタンクのピュー研究所が今年はじめに発表した報告書によると、TikTokの新規コンテンツは30代と40代の米国人がアップロードする比率が高まっている。いまやTikTokへの動画投稿が20代の米国人ユーザーより多くなっているのだ。

同じ調査では、米国の成人の33%がTikTokの利用経験があると回答しており、2021年の21%から上昇している。TikTokのユーザー基盤も成熟化している。30歳から49歳の米国の成人で利用経験があると回答した人は約39%で、3年前の22%から上昇していた。

ここ数年間にわたってTikTokの将来がワシントンD.C.で議論されるなか、TikTokは新機能をリリースして体験を抜本的に変革している。その最たるものは、おそらく「TikTok Shop」の導入だろう。これはTikTokで商品を直接販売、マーケティング、購入できるネット通販の仕組みである。

およそ30,000人のTikTokフォロワーがいるオーブリーは、TikTok Shopで購入できる商品(100%天然素材のスキンケア用セラムなど)のレビューを投稿して、収入の約4分の1を稼いでいるという。彼女の視聴者が購入するたびに、その売り上げの一部を受け取るわけだ。

一方で、オーブリーは収入の大部分を「TikTok Creative challenge」という仕組みから得ているという。この機能では、アマチュアのコンテンツクリエイターがNetflixなどのブランドの広告を作成して収入を得ることができる。

オーブリーの経験は、さまざまな点でTikTokクリエイターが米国経済の日常風景の一部になっている実態を明らかにしている。彼女は視聴者数がそこそこの専業主婦であり、フォロワーが数百万人の10代のダンススターではない。大手ブランドとの契約の獲得ではなく、TikTokが運営する特定のプログラムに生計を依存している。この成功をほかのアプリで再現することは簡単ではないだろう。

「現時点で(議員たちが)耳を傾けているとは思いません」と、オーブリーは言う。「わたしが思うに、多くの議員はTikTokとは何で、TikTok Shopとは何で、TikTok Shopが人々にどのように利益をもたらしているのかを理解していないのです」

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

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