「TikTok禁止法案」が米上院で可決、今後の先行きはどうなる?

TikTokの米国での運営について、事業を売却しなければ米国内での活動を禁じる法案が米上院で可決された。バイデン大統領は法案に署名する考えを示しており、今後の先行きが注目されている。
Illustration of the US Capitol building casting a shadow over the TikTok logo
Photo-illustration: Jacqui VanLiew; Getty Images

米国連邦議会の上院が4月23日(米国時間)、TikTokを運営する中国のバイトダンス(字節跳動)に対する最終通告を含む大規模な対外支援法案を可決した。TikTokについて「事業売却するか、米国内での事業活動を禁じる」という内容である。この法案はすでに4月20日に下院で可決されていたもので、ジョー・バイデン大統領は24日(米国時間)に法案に署名する考えを示している。

「米国のソーシャルメディア・プラットフォームは外国からの影響工作への対策をうまく実行できていませんが、それでも敵対国の指示で動いているという懸念はまったくありませんでした」と、上院情報委員会のマーク・ワーナー委員長は23日の採決を前に語っている。「同じことがTikTokにも言えるとは、わたしには思えません」

米国議会は4年以上前から、国家安全保障に対する潜在的なリスクを理由に「TikTokを禁止する」との“脅し”をかけてきた。こうしたなか、下院はTikTokの売却に関する別の法案を3月に可決したが、新しいオーナーを見つけるには6カ月という猶予期間では短すぎるという意見がマリア・キャントウェル上院議員などから出たことで、上院では可決に至らなかった。これに対して新しい法案は期限を最大6カ月延長し、TikTokの事業売却まで1年間の猶予を与えることになる。

「1億7,000万人の米国人の言論の自由を踏みにじる禁止法案を再び押し通す目的で、下院が重要な対外援助と人道支援を隠れみのにしていることは残念である」と、TikTok側は20日の採決直後に声明を出している。なお、バイトダンスは23日の上院での採決にはコメントを出していない。

トランプはバイデン政権を非難

TikTokの禁止に向けた動きは、特に2024年の大統領選挙のキャンペーンにおいてTikTokを利用する政治家が増えるにつれ、政治的な緊張感を伴うものになりつつある。

バイデン政権と選挙チームは過去数年にわたってTikTokにおける独自アカウントの開設を避け、代わりにインフルエンサーのネットワークを構築する方法を選んだ。ところが、大統領選に向けてバイデン陣営は、今年2月にTikTokのアカウントを開設している。そして3月になってバイデンは、“TikTok禁止法案”に署名する考えを記者団に語ったのだ。

このTikTokの事業売却を求める法案が復活したことに対し、前大統領のドナルド・トランプはバイデンによる“TikTok攻撃”を非難した。「みなさん、特に若い人たちに知っておいてもらいたいのだが、TikTokが禁止されるのは悪党のジョー・バイデンのせいだ」と、トランプは22日に独自のSNS「Truth Social」に書き込んでいる。「彼が法案を成立させようと後押しをしている。それはFacebook上の友人たちがさらに金持ちになり、優勢になるようにすることで、おそらく違法な手段を用いながら共和党と戦い続けられるようにするためなのだ」

TikTokを最初に追及したのはトランプ政権だった。トランプは2020年、TikTokやモバイル決済アプリ「Alipay(アリペイ、支付宝)」、メッセージアプリ「WeChat(微信)」などを禁止する一連の大統領令に署名している。しかし、法廷での異議申し立てにより、これらの大統領令は差し止められたのだ。昨年にはモンタナ州議会がTikTokの禁止法案を可決したが、連邦判事は「(合衆国憲法において言論の自由を規定した)修正第1条に違反する可能性が高い」として差し止めを命じている。

なお、今回の法案が下院で20日に可決された後、TikTokの公共政策責任者のマイケル・ベッカーマンは次のようなメールを従業員に送っている。「(法案が署名され法律として成立した場合には)わたしたちは法廷において異議を申し立てます」

国家安全保障とプライバシーへの懸念

今回の法案を支持する主な動機として、多くの議員が国家安全保障とデータのプライバシーに関する懸念を挙げていた。

「米国議会はバイトダンスやTikTok、その他の個々の会社を罰するために動いているわけではありません」と、上院議員のキャントウェル(民主党)は22日に議会で発言している。「米国議会は敵対国によるスパイ行為や監視、悪意ある行為のほか、弱い立場にある米国人、米国軍人、米国政府関係者に危害を加えることを防ぐために動いているのです」

TikTokの禁止法案を批判する人々は長年にわたり、包括的なデータプライバシー法案を可決すれば、議員たちがTikTokのセキュリティに関して抱いている不満のみならず、米国に本社を置く企業が抱いている同様の不満の大部分について解決できるのだと主張してきた。

「米国議会は包括的な消費者プライバシー法を可決することもできたはずです。そのような法律があれば、TikTokに関して提起されたデータプライバシーに関する懸念の多くに対して、より有効な手立てになったとわたしは考えています」と、非営利団体「Center for Democracy and Technology」の表現の自由に関するプロジェクトでディレクターを務めるケイト・ルアンは語る。「それに、極度に深刻で差し迫った危害が存在していることを示す公的な証拠は、現時点では見つかっていないと思います」

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるTikTokの関連記事はこちら


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