テスラが“手ごろな価格のEV”の計画を加速、自動運転タクシーの名称は「サイバーキャブ」に

テスラが「より手ごろな価格のモデル」を含む新モデルの計画を加速させていることを、4月23日(米国時間)に明らかにした。発表済みの自動運転タクシーの呼称も明かすなど、相次ぐ困難のなか新たな動きが注目される。
テスラが“手ごろな価格のEV”の計画を加速、自動運転タクシーの名称は「サイバーキャブ」に
Photograph: Patrick Pleul/picture alliance/Getty Images

テスラが新しい電気自動車(EV)のラインナップの拡充を進めている。「より手ごろな価格のモデル」を含む新モデルの計画を加速させていることを、4月23日(米国時間)に投資家に対して明らかにしたのだ。これまで2025年後半に生産開始予定とされていた新モデルの計画は前倒しされ、生産開始がかなり早まることを示唆している。

この「手ごろな価格のモデル」が、以前から言及されていた「次世代EV」なのか、それとも完全に新しいモデルなのかは不明だ。今回の情報により、テスラの株価は23日の時間外取引で9%以上も上昇している。

この計画変更は、ここ数カ月でテスラが直面している問題を踏まえたものだ。テスラは米国でEV販売台数が伸び悩んでおり、中国の競合メーカーによる世界的な優位性の高まりが課題となっている。

テスラが23日に発表した決算によると、2024年1~3月期の販売台数と総売上高は、前年同期比でともに9%減少した。これはテスラにとって、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に見舞われた2020年以降で初の販売台数の減少であり、前年同期比の売上高の減少幅は2010年代初頭以降では最大となっている。

開発中という「手ごろな価格のモデル」に関する詳細や、計画がどれだけ前倒しになったのかについては、テスラは今回の発表では明らかにしなかった。しかし、今回の投資家向けの情報では、新モデルの生産を加速させるべく、新しい製造技術に対する野心を“後退”させることを明らかにしている。

自動運転タクシーの名称は「サイバーキャブ」

テスラの最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスクは、自動車生産に対するテスラの画期的なアプローチについてアピールし続けてきた。次世代のEVについてマスクは23年、ヘンリー・フォードの時代から続く古典的な生産ラインではなく、工場内のさまざまな場所で同時に部品を組み立てる新方式を導入すると約束した。この方式は「アンボックストプロセス」と呼ばれ、テスラ幹部によると人件費と生産コストを削減できるという。

2025年半ばまでに出荷を予定している新モデルは、現在と同じ生産ラインを利用することをテスラは23日に明らかにしている。つまり、新旧のエンジニアリング手法を組み合わせるわけだ。しかし、生産方式の一新と比べて大幅なコスト削減につながるわけではないことを、テスラは認めている。「それでもこの不確実な時代においては、生産台数を慎重に増やすことが可能になるのです」

これに対してテスラは、すでに計画を発表済みの自動運転タクシーに関しては、「革新的な“アンボックスト”の生産技術を用いる」方針を明らかにした。また、マスクは23日の投資家との電話会議において、この自動運転タクシーの名称について「Cybercab(サイバーキャブ)」と語っている。

テスラによる大規模な生産計画の縮小は、今回が初めてではない。マスクは2016年、「モデル3」と「モデルY」を、“地球外弩級戦艦(alien dreadnought)”と呼ぶ完全自動化工場で生産する方針を明らかにした。ところが実際のところ、18年まではテスラが生産ラインで人間の作業員を使い続けるであろうことは明らかだったのである。

その結果はカオスとも言えるものだった。『WIRED』の取材によると、結果的に人間の作業員が手作業でクルマの部品を生産ステーションへと運ぶ状況に陥り、テスラは倒産寸前に追い込まれたのだ。

レイオフにリコールと相次ぐ困難

テスタに関しては4月上旬、自動運転タクシーの開発と自動運転技術の改良に注力するために、低価格なEVのプロジェクトについては中止する方針であると報じられた。この記事に対してマスクはXへの投稿で反論したが、8月に自動運転タクシーの発表イベントを開催することについては認めている。

こうしたなかテスラは先週、全世界の従業員の約10%を解雇(レイオフ)すると発表し、これに伴い経営幹部2人が退社している。またテスラは23日、カリフォルニア州、テキサス州、ニューヨーク州の当局に対し、数千人の雇用が失われたことを報告した。

さらに、イスラエルとハマスの紛争によって紅海での運航船の通航が停止した影響も受けたと、投資家に対して23日に説明している。また、ドイツの工場が放火の疑いで数日間にわたって閉鎖されたことも影響したという。

先週には電動ピックアップトラック「Cybertruck(サイバートラック)」について、約4,000台のリコールを発表している。組み立てラインにおいて“せっけん”を使うようになったことで、サイバートラックのアクセルペダルのパッドが引っかかる不具合が発生したことが理由だ。

(Originally published on wired.com, translated by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるテスラの関連記事はこちら


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