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NVIDIAのCEO、ジェンスン・フアンが語るAIスーパーコンピューターの未来

NVIDIA(エヌビディア)のGPUにテック業界は夢中だ。AIゴールドラッシュを牽引するエネルギッシュなCEO、ジェンスン・フアンに、GPU不足解消の見通し、AI革命の進展、中国やライバル企業の存在、そしてプライベートなあれこれを訊いた。
JenHsun Huang
Photograph: Ryan Young

NVIDIA(エヌビディア)のCEO、ジェンスン・フアンと話をするなら注意が必要だ。人工知能(AI)の未来に熱中しているフアンとの90分間の活気あふれる対話の後でわたしは、未来はニューラルネットワークの桃源郷なのだとすっかり説得されてしまったのだ。すべてが目に浮かんできた。ロボット・ルネッサンス、天の恵みのような医療、自律走行車、記憶するチャットボット。サンタクララにあるNVIDIAの敷地内の建物も拍車をかけた。どこに目を向けても、見えるのは三角形の中にまた三角形。「コンピューターグラフィックスの基本的要素」である三角は、NVIDIAの最初の成功をもたらした形だ。フラクタルの渦に呑み込まれたのも不思議はない。わたしは“ジェンスン酔い”した。

フアンは時の人だ。いや、今年の人。あるいはこの十年を代表する人物かもしれない。テック業界は、スーパーコンピューティングを可能にするNVIDIAのGPUに文字通り夢中だ。NVIDIAはかつて、ジェネレーションXのビデオゲーム・グラフィックスカードの製造元として知られていた。何億もの三角形を効率的にレンダリングして映像に命を与えたのだ。だがいまは違う。コンピューターに話しかけると返事をする世界。やがてコンピューターがわたしたちに取って代わると考える専門家さえいる世界。そんな世界にわたしたちを連れていくハードウエアをつくる会社、それがいまのNVIDIAだ。

61歳のフアンは、お決まりのレザージャケットとシンプルな黒いスニーカーでインタビューに現れた。月曜日の朝だった。フアンは月曜の朝が嫌いだとボヤいた。日曜日もずっと仕事をして週の始まりにはすでに疲れているからだと。そうは見えなかったが。このインタビューの2日後、わたしはヘルスケア分野への投資シンポジウムに参加したのだが、たくさんのバイオテックマニアやブレザー姿の人たちに交じって、元気いっぱいのフアンもステージにいた。

「今日の聴衆は、いつものわたしの聴衆とは違います。生物学者と科学者、怒れる人たちです」。マイクに語りかけて、フアンは笑いを誘った。「わたしたちが使う言葉は、創造とか向上とか加速するとか。あなたたちが使う言葉は、標的とか抑制とか」。そんな話をしながらの売り込みを忘れない。「薬の設計や、薬の開発をコンピューターでするなら膨大なデータをプロセスしないといけない可能性が高い。AIを使ったコンピューターのことで悩んだら、いつでもメールください」

フアンは、NVIDIAを常に巨大テックトレンドの最先端に置き続けてきた。2012年、小さな研究者グループがAlexNet(畳み込みニューラルネットワーク)と呼ばれる画期的な画像認識システムを発表した。CPUではなくGPUを使い、コードをバラしてディープラーニングの新たな時代を切り拓いた。するとフアンは、即座にAIに集中するよう会社の舵を切った。17年、グーグルが「Transformer」として知られる神経回路を模した新しいネットワーク構造を発表し(TransformerのTはChatGPTのTだ)、AIゴールドラッシュのきっかけをつくった。その後NVIDIAは、飢えたテック企業に向けてAIに特化したGPUを販売する態勢を完璧に整えていた。

NVIDIAは現在AIチップ市場での販売の7割以上を占めており、時価総額は2兆ドル(約300兆円)に迫っている。23年第4四半期の収益は220億ドル(約3兆3,000億円)で前年比265%増を記録した。株価はこの1年で231%上昇した。フアンは不気味なほど才能があるか、馬鹿馬鹿しいほど幸運か(あるいはその両方か!)だが、誰もがその手法を知りたいと思っている。

だが永久に君臨する者はいない。フアンは米中テック戦争の中心におり、規制当局に翻弄されている。しかもAI半導体業界におけるライバルは、グーグル、アマゾン、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフトといった巨大企業でテックに注ぐ資金はうなるほどある。昨年12月末、半導体メーカーのAMDが、NVIDIAと競合するAIコンピューティング用の大型プロセッサを発表した。スタートアップも狙いを定めている。調査会社Pitchbookによると、去年の第3四半期だけでも、ベンチャーキャピタリストたちはAIチップに8億ドル(約1,200億円)以上を投資している。

したがって、フアンが休むことはない。驚いたことに、インタビューの間でさえ、フアンはわたしに出身地やベイエリアに住むことになった経緯など逆インタビューを始めたのだ。

ジェンスン・フアン:あなたもわたしもスタンフォード大学の卒業生ですね。

──はい。でもわたしはジャーナリズム・プログラムで、あなたは違いますよね。

ジャーナリズムに進めばよかったと思います。

──どうしてですか?

リーダーとしても人としてもわたしが深く尊敬するアドビのCEOシャンタヌ・ナラヤンがこう言いました。ずっとジャーナリストになりたかったと。物語を伝えるのが好きだから。

──確かに、ビジネスを築く上で物語を効果的に伝える能力は重要ですよね。

ええ。戦略を定めるのはストーリーを語ることです。文化を育てるのもストーリーテリングです。

──これまでに何度も、NVIDIAのアイデアはプレゼンで売り込んできたのではないと言ってきましたね。

その通りです。すべては物語をいかに伝えるかです。

──では、こういう質問から始めたいと思います。あるテック企業の幹部がわたしにこんなことを話してくれました。NVIDIAはアマゾンより1年古い。それなのに、いろんな意味でアマゾン以上に、毎日が初日(day one)のような姿勢でアプローチしていると。どうすれば、そんな姿勢を保つことができるのですか?

おもしろい言い方ですね、確かに。毎朝、わたしは毎日、今日が初日だという気持ちで目覚めます。実際、毎日、誰もやったことのないことをやろうとしているわけです。脆い側面もあります。常に失敗の可能性はあるわけですから。いまもまったく新しい事業を始めようとしていて、その会議をしていたところです。どうすれば正しくできるのか、まだわかっていません。

──新しい事業とは何ですか?

新しいタイプのデータセンターを建設しようとしています。AI工場と呼んでいます。いまあるデータセンターでは、たくさんの人がたくさんのコンピューターを使ってひとつの大きなデータセンターでファイルを共有しています。AI工場は発電所のようなもので、とてもユニークです。数年かけて建設を進めてきましたが、いよいよこれを商品にしないといけません。

──AI工場に名前はありますか?

まだつけていません。でもきっと爆発的に増えます。クラウドサービスのプロバイダーたちが建設するでしょうし、わたしたちも建設します。バイオテック企業ももつでしょう。小売業も、ロジスティック企業も。未来の自動車メーカーには実際の商品としてのクルマを組み立てる工場と共に、クルマ用のAIをつくる工場が必要になります。物理的なクルマが原子なら、クルマ用AIは電子です。現に、こうして話しているいま、イーロン・マスクがそれをやっています。自動車メーカーが将来的にどのような姿になっているのかについて、マスクの思考はずっと先を行っています。

──以前、組織をフラットにしていると言っていました。あなた自身が情報の流れの中にいたいから、30~40人の幹部が直接あなたに報告を行なうと。最近、興味をひくのは何ですか? 「いずれ、NVIDIAをここに賭けることになる」と思わせるものは?

情報は組織の上から下へ流れないといけないわけではありません。メールやテキストのような道具がなかった“ネアンデルタール期”と違って。情報は今日もっと速く流れます。従って、情報がトップから下へと通訳されていく指揮命令系統のようなものは必要ないのです。フラットなネットワークによってわたしたちは迅速に適応することができます。技術の速い変化に合わせるためにもそれが必要です。

NVIDIAの技術が進んできた道を振り返ると、古典的にはムーアの法則の通り、(半導体の集積率は)数年おきに2倍になっていきました。この10年でいえば、AIは百万倍くらいになりました。ムーアの法則よりはるかに速い。指数関数的に加速する世界に住んでいるなら、トップダウンで一段ずつ情報を伝えるなんてやっていられません。

──では、こう伺います。あなたの「ローマ帝国(頭を離れないこと)」は何ですか? これはインターネットミーム的な表現ですが。Transformerの論文に相当するものは、いまでいうと何でしょう? いま起きていることで、何もかもを変革すると感じることは何ですか?

ふたつあります。ひとつはまだ名前さえないけれど、基礎ロボット学の分野でわたしたちが進めていること。もし文書を生成できるなら、映像を生成できるなら、動作も生成できるのではないか? その答えはおそらく「イエス」です。だとすれば、もし動作を生成できるなら、意図を理解して一般的な表現を生成することができるはずです。つまり、ヒューマノイドはすぐそこまでやってきています。

もうひとつは、状態空間モデル(State Space Model = SSM)。恐ろしく長いパターンやシーケンスを、コンピューテーションを莫大なものにせずに学ばせる。これがおそらく次のTransformerになるでしょう。

Photograph: Ryan Young

──それで何ができるようになりますか? 実生活でどんなことが?

コンピューターと長い会話ができるようになります。その上、話した中身は失われることがない。しばらく話題を変えて戻ってきても、きちんと話が続く。あるいは、ものすごく長いシーケンス、例えばヒトゲノムのようなものを理解できるようになるかもしれない。遺伝コードを見れば、それが何を意味するかが理解できるかもしれません。

──実現にどのくらい近づいていますか?

最近の例でいうと、AlexNetが12年に発表されてから、超人的AlexNetになるまでわずか5年しかかかりませんでした。ロボットの基盤モデルはすぐそこです。来年のどこかだと言っていいくらいです。そこから5年も経てば、すごいものが見られますよ。

──広範に訓練されたロボットの行動モデルからいちばん恩恵を受けるのはどんな産業でしょうか?

そうですね。重工業は世界最大の産業です。電子を移動させることも簡単ではないけれど、原子の移動はとにかく非常に大変です。運輸、ロジスティクス、重いものをある場所から別の場所へ動かすことや次の薬を発見すること。これらすべてに対応するには、原子や分子、タンパク質を理解しなければなりません。こうした巨大で偉大な産業は、まだAIが影響を及ぼしていない分野です。

──先ほどムーアの法則に触れました。あれは時代遅れですか?

ムーアの法則はいまでは、チップの問題ではなくシステムの問題になっています。むしろ多数のチップの相互接続性の問題です。10年か15年前なら、いくつものチップをつなぐためにコンピューターを細分化することから着手したでしょう。

──そこで、19年のイスラエル系企業Mellanoxの買収についてお聞きします。NVIDIAは当時、こう発表しました。現代のコンピューティングはデータセンターの需要を増大させたが、Mellanoxのネットワーキング技術はコンピューティングの効率化を加速するだろうと。

はい。まさにその通りです。Mellanoxを買収したのは、わたしたちの半導体を拡張して、データセンター全体をスーパーチップにしようと考えたからです。これで現代のAIスーパーコンピューターが可能になりました。これこそまさにムーアの法則が終わったということであり、コンピューティングを拡大したいと思うなら、データセンターのスケールでやらなければならないと認識することでした。ムーアの法則の成り立ちを考えて、わたしたちはこう言いました。「ムーアの法則に縛られてはいけない。あれはコンピューターの限界を示したものではない」。拡大する新たな方策を見つけるためには、ムーアの法則を捨てなければいけないのです。

──Mellanoxの買収はNVIDIAにとって非常に賢い選択だったと評価されています。直近では、世界で最も重要な半導体のIP(知的財産)供与会社のひとつであるArmを買収しようとして、当局に阻止されました。

うまくいけばよかったですけどね!

──米政府が同意するかは別として、きっとそうでしょうね。いったんこの問題はおきましょう。買収といえば、いまはどの分野に目を向けているのですか?

巨大なシステムのオペレーティングシステムは途方もなく複雑です。GPUに入っている何千万、何億、あるいはいまや何十億個にもなる小さなプロセッサーを調整し、山ほどのコンピューティングのなかでどうやってオペレーティングシステムを創り出すか? これは至難の業です。もしそれができるチームが社外にあるなら、提携するか、それ以上のことも考えられるでしょう。

──つまり、NVIDIAにとっては、オペレーティングシステムをもって、プラットフォームをつくることが本当に重要だということですね。

わたしたちはプラットフォーム企業ですよ。

──プラットフォームになればなるほど、問題も増えます。プラットフォームのアウトプットに対して人々はいっそうの義務と責任を求めるようになっています。自動運転のクルマがどう動くか、ヘルスケア機器の誤差の許容範囲はどのくらいか、AIシステムに偏見はないかなど。こういった問題にどう対処しますか?

ただ、わたしたちはアプリケーション企業ではありません。これが最も単純な考え方でしょう。産業に寄与するために、わたしたちはやらなければならないことを最大限やりつつ、関与は最小限にしたい。ヘルスケアで言えば、薬の開発はわたしたちの専門ではありません。コンピューティングが専門です。クルマを製造するのはわたしたちの専門領域ではないけれど、AIに優れたクルマのためのコンピューターを製造するのはわたしたちの得意分野です。正直に言って、ひとつの会社がこれらすべてについて長けていることは難しい。けれど、わたしたちはAIコンピューティングの部分に関してはとても優秀です。

──昨年、NVIDIAのAI用GPUを手に入れるまでに数カ月待たされる顧客もいるという報道がありました。いまはどうなっていますか?

そうですね。今年も供給は需要に追いつかないでしょう。今年はダメです。おそらく来年も。

──いまの待ち時間はどのくらいですか?

いま現在の待ち時間は知りません。ただ、ご存知のように今年はわたしたちにとって新しい時代の始まりです。

──噂のGPU Blackwellのことですか?

そうです。これから出す新世代のGPUです。この性能は抜群です。信じられないようなことになります。

──つまり、顧客が必要とするGPUの数が減ることを意味しますか?

それが目標です。トレーニングモデルのコストを大幅に減らすことが目標です。そうすれば、トレーニングしたいモデルを大きくすることができます。

──NVIDIAは数多くのAIスタートアップに投資をしています。昨年は30社以上に出資したと報告されています。投資を受けた会社は御社のハードウエアを優先的に調達できるのですか?

供給不足の問題はみんな同じです。なぜなら、ほとんどの会社がパブリッククラウドを使っているから。パブリッククラウドのサービスプロバイダーと交渉せざるを得ません。わたしたちが投資したスタートアップにとってのメリットは、わたしたちのAI技術にアクセスできること。つまり、わたしたちのエンジニアリング能力や、それぞれのAIモデルを最大化するわたしたちの特別な技術にアクセスできることです。効率化してあげることができます。もし処理能力が5倍になるなら、GPUを5個多く手に入れるのと同じ。これがわたしたちの投資を受けるメリットです。

──その意味で、ご自身をキングメーカーだと考えますか?

いいえ。わたしたちがスタートアップに投資するのは、その人たちがすでに素晴らしいものをもっているからです。投資させてもらえるのはわたしたちにとっての栄誉であって、その逆ではありません。世界で最も優れた頭脳をもつ人々なのです。その信頼性をわたしたちが裏づける必要などありません。

──もしも機械学習がトレーニングより推論型になったら何が起きますか。もしAIが基本的にいまよりもコンピューター集約型でなくなったら。GPUの需要は減りますか?

推論は大好きです。実際、NVIDIAの今日のビジネスはおそらく40%が推論で60%がトレーニングだと思います。推論がなぜいいかというと、AIがついにうまくいきつつあることを意味するからです。もしNVIDIAの仕事が90%トレーニングで推論が10%だとしたら、AIはまだ研究段階だということになるでしょう。7、8年前は実際にそうでした。でも今日、クラウドに指示を打ち込めば何かを生成してくれる。ビデオなのか映像なのか、二次元なのか三次元なのか。テキストかグラフか。いずれにしろ、背後にはNVIDIAのGPUが存在する可能性が高い。

Photograph: Ryan Young

──NVIDIAのAI用GPUの需要が衰える事態は予測しますか?

わたしたちは生成AI革命の始まりにいます。いま世界の多くで行なわれているコンピューティングの大半は依然として検索をベースにしています。検索とは、スマートフォンで何かに触ると、クラウドに信号を送って一片の情報を取ってくる。Javaを使って、いくつかの違うものから返事をつくり出して、あなたのスマートフォンやスクリーンに映し出すかもしれない。将来のコンピューティングはもっとRAG(検索拡張生成)型になっていくでしょう[編註:RAGは大規模言語モデル(LLM)が通常のパラメータ以外からデータを引き出すことを可能にするフレームワーク]。検索部分は少なくなって、個人に合わせた生成部分がずっと、ずっと大きくなっていくでしょう。

その生成を担うのが、どこかに組み込まれたGPUです。わたしたちはこの検索拡張生成コンピューティング革命の入り口にいるのです。そして生成AIがあらゆるものの本質になっていきます。

──最新のニュースによると、制裁に違反することなく中国にチップを輸出できるよう米政府と協調しているそうですね。これは最先端のチップではないと理解しています。中国とのビジネスを確実に続けるために、政府とどの程度の協力関係にあるのですか?

まず、ちょっと元に戻ると、輸出管理であって制裁ではありません。米国政府はNVIDIAの技術とAIコンピューティング・インフラが国家にとって戦略的であると考えているので、輸出管理の対象となっているのです。わたしたちは、輸出管理に従いました。最初は……。

──22年8月ですね。

そう。そして翌年、政府は輸出管理にさらなる規定を追加しました。再び、製品をつくり直さなくてはいけなくなりました。それもやりました。わたしたちは最新の輸出管理ルールを遵守できるように、いままた新たな製品づくりを進めています。政府の考えとズレがないよう確認しながら、緊密に連携しています。

──こうした制約が、中国を競争力のあるAI半導体開発に駆り立てる懸念はどのくらいおもちですか?

中国には競争力のある製品があります。 ええ。でもデータセンターのスケールではありません。ただ、去年発表されたファーウェイのスマートフォンの「Mate 60」は中国製の7nmのチップで注目されました。 本当にすごい会社です。半導体プロセッシング技術の制約を受けているにもかかわらず、数多くの半導体を集約して統合することで、とても大きなシステムを組み上げることに成功しています。

──中国が生成AIで米国と肩を並べる可能性について、一般論として、どのくらい懸念していますか?

規制があるために、中国が最先端技術にアクセスしようとすれば制約があるでしょう。輸出管理の縛りを受けていない西側の国々は、はるかに優れた技術にアクセスできます。しかもこうした技術はどんどん進んでいく。ですから、こうした制約のために中国にはコストの負担がかかるでしょう。技術面だけで言えば、半導体製造システムを集めることで同じ仕事はできます。だが、その方法では1ユニットごとのコストが高くなってしまう。これが最も簡潔な回答だと思います。

──NVIDIAが中国に輸出できるよう規制を遵守したチップをつくり続けていることは、台湾が誇る半導体メーカーであるTSMCとあなた自身の関係に影響を与えますか?

いいえ。規制は明快です。クルマの制限速度と同じことです。

──よくおっしゃることですが、NVIDIAのスーパーコンピューターの35,000個の部品のうち、TSMC製は8個であると。わたしはこれを聞くたび、大した比率ではないなと感じます。TSMCへの依存度を過小に見せようとしていますか?

いえ、そんなつもりはありません。まったく。

──では、何を言わんとしているのですか?

ただ単に、AIスーパーコンピューターをつくるには、ほかにもたくさんの部品が必要だということを強調したいだけです。実際、わたしたちのAIスーパーコンピューターには、半導体業界すべてというくらい多くのパートナー企業が参画しています。サムスン、SKハイニックス、インテル、AMD、Broadcom、Marvell Technologyなどと緊密な関係を築いています。AIスーパーコンピューターの世界では、わたしたちが成功すれば、たくさんの企業が一緒に成功する。それはとてもうれしいことです。

──TSMCのモリス・チャンや、マーク・リウと、どのくらい頻繁に話をしますか?

常に。途切れなく。ええ。途切れることなく。

──どんな話をするのですか?

最近は半導体のアドバンスド・パッケージングについて。今後のキャパシティ計画について。高度なコンピューティングのキャパシティです。CoWoS(半導体とメモリーモジュールを高密度にパッケージするTSMC独自の方法)には新たな工場、新たな製造ライン、新たな装置が必要です。なので、TSMCの支援は真に、本当に、すごく重要なのです。

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──最近、生成AIに注力しているCEOと話をする機会がありました。いずれNVIDIAのライバルとして浮上するのは誰かと訊いたら、その人はグーグルのTPUだと言いました。別の人はAMDだと。あなたにとってはそんな単純な二項対立ではないと推測しますが、最大の競争相手は誰ですか? あなたを眠れなくするのは誰ですか?

みんなですよ。TPUチームは特別です。詰まるところ、TPUチームは本当に素晴らしいし、AWSのTrainiumチームもInferentiaチームも本当に特別で、実に素晴らしい。マイクロソフトは内部でMaiaと呼ばれるASIC(特定用途向け集積回路)の開発を進めています。中国のあらゆるクラウドサービスプロバイダーも内部で半導体を製造しています。さらに、既存のチップメーカーに加えて、数多のスタートアップがすごいチップをつくっています。みんなチップをつくっています。

でも、それで眠れなくはなりません。仕事で十分へとへとになって、眠れないことのないように努めているからです。唯一自分でコントロールできることです。

でも、毎朝目覚める理由は、約束を守らなければいけないからです。それは、データセンター規模で、十分な知見のもとAIスーパーコンピューターをつくるとき、わたしたちが世界で唯一、誰とでも提携できる会社だということです。

──個人的なことをお聞きしたいのですが。

(広報担当のほうを向きながら)彼女は宿題をしてきたみたいだよ。言うまでもなく、わたしはただ会話を楽しんでいますよ。

──光栄です。わたしもです。お聞きしたかったのは……。

ところで、モリスやほかの古い知り合いがインタビューのモデレーターを依頼してくるとき、その理由は、わたしがただそこに座って相手に質問しながらインタビューするからではありません。わたしは相手と会話をするんです。見ている人に心を寄せて、みんなが聞きたがっているかもしれないことを考えるのです。

──わたしは、ChatGPTにあなたに関する質問をしてみました。あなたにはタトゥーがあるかを知りたかったのです。次の会合であなたにタトゥーをプレゼントする提案をしようと思ったんです。

あなたが入れるなら、わたしもしますよ。

──わたしはひとつ入れていて、増やそうかなと考えているところです。

わたしも入れています。

──はい。ChatGPTが教えてくれました。それによると、ジェンスン・フアンは株価が100ドルに達した記念に会社のロゴをタトゥーとして入れたと。さらにこういうことも教わりました。「だが、フアンは2度とタトゥーを入れないだろうと表明した。痛みが予想を上回ったから」。泣いたとか。そうなんですか?

少しね。タトゥーを入れる前にウイスキーを一杯あおることをお勧めします。あるいは鎮痛剤か。女性は痛みに強いのかもしれません。娘は大きなタトゥーを入れています。

──で、タトゥーを入れるとしたら、三角形はどうでしょうか? 三角形が嫌いな人なんていませんよね? 完璧な幾何です。

あるいはNVIDIA本社のシルエットとか! 三角形で構成されていますからね。

──約束ですよ。ところで、個人的にChatGPTとかBardとか、そうしたものを使うことはありますか?

Perplexityを使っています。ChatGPTも好きですよ。両方、ほとんど毎日使っています。

──何のために?

リサーチです。例えば、コンピューターが支える新薬開発とか。コンピューターを使った新薬開発の最近の進歩について知りたいとしましょう。まずこのテーマ全体についての大枠を知りたい。自分の枠組みをつくれるように。そこからどんどん具体的な質問をしていくことができる。だからLLMが好きなんです。

──以前、筋トレをしていたと聞きました。いまもやっていますか?

いいえ。腕立て伏せを1日に40回やることにしています。数分もかからないでしょう。怠け者の運動です。歯を磨くときはスクワットをします。

──最近、ポッドキャスト「Acquired」でのコメントが大きな話題になりました。司会の質問は、いま30歳で会社を立ち上げようとしていたら、何の会社にしますか、というものでした。それに対するあなたの答えは、起業なんてしない、と。何か修正することはありますか?

あの質問に答える方法はふたつありました。そこでわたしはこう答えたのです。「30歳のとき、いま知っていることを全部知っていたなら、萎縮したに違いありません。怖かったと思います。だから起業はしなかったでしょう」

──ビジネスを立ち上げるには、いささかの妄想が必要ということでしょうか。

それが無知の強みです。どれほど大変かを知らない。どれほどの痛みと苦しみが待っているかを知らない。いま起業しようとしている人に会うと、みんなどれほど簡単かをわたしに説きます。もちろん声援は送るし、夢を潰すつもりはない。でも、頭の片隅で知っています。「ああ、そんな風に思っている通りには全然いかないんだよ」とね。

──NVIDIAを経営していく上で、あなた自身が払った最大の犠牲とは何ですか?

ほかの起業家たちと同じです。ひたすら頑張ること。しかも長い間、誰もあなたが成功するとは思わない。やれると信じているのはあなたひとりだけです。不安、脆さ、時に屈辱、これはすべて真実です。誰もそんなことは話さない。でも本当のことです。CEOも起業家も、ほかの人と同じように人間なのです。みんなが見ているところで失敗すれば、恥ずかしいものです。ですから、誰かがこう聞いたとします。「ジェンスン、いまこれだけ手にしているのに、起業しなかっただろうと言うのかい?」「いやいやいや、そうじゃない」。でも30歳のときにNVIDIAがいまの姿になると知っていたら、起業したか? 冗談でしょう。すべてを犠牲にしてでも会社を立ち上げましたよ。

(Originally published on wired.com, translated by Akiko Kusaoi, edited by Mamiko Nakano)

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