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Fashion in Stockholm 3:なぜALL BLUESのジュエリーをわたしたちは身につけたいと思うのか

気づけばこの都市からは、ユニークなファッションブランドが輩出され続けている。スウェーデンのストックホルム。決してファッション・キャピタルとはいえない街で、なぜそんなことができるのか。その理由を知るために、会いに行った。シンプルで力強く、倫理的な美しさを宿したオール ブルースのジュエリーとショップについて。
Fashion in Stockholm 3:なぜALL BLUESのジュエリーをわたしたちは身につけたいと思うのか
PHOTOGRAPH: ALFRED JOHANSSON
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黒い服との美しいコントラスト

オールブラック。どうやらストックホルムの住人は、特に冬の間は、極端に黒い服ばかりを好んで着ている。プラクティカルな合理主義、ミニマルを尊ぶ気質、目立ったり誇張したりを好まぬ傾向など、この都市のメンタリティに理由を求める向きが多いようだが、その決定的な理由はわからない。

しかし、とあるホテルのウェルカムカードに「How to Act a Local(ローカルっぽく振る舞う方法)」と題したTIPSがまとめられていて、そのなかに「ストックホルマーは本当に、本当に、すべてをブラックで装うのが好きです」と記載されていたくらいだから、間違った認識ではないのだと思う。

そしてストックホルムには、オール ブルースという素敵なジュエリーのブランドがある(こちらのブルーはどうやら色のことではなく、マイルス・デイヴィスの曲名に着想を得たようだ)。デザインに過剰さはもちろんないが、退屈なほどシンプルなわけでもなく、シェイプやボリュームのバランス、モチーフの選び方と発展のさせ方に、このブランドならではの文法があるように感じる。

2020年11月にオープンした、オールブルースのフラグシップストアは、19世紀末に建てられた古いビルの1階。美しい夕日で知られるニブロ湾から歩いてすぐの場所にある。周囲にはラグジュアリーブランドのストアも多い、風光明媚なショッピングエリアとなっている。PHOTOGRAPH: ALFRED JOHANSSON

加えて、素材はリサイクルの金属だけを使用。ほとんどすべてのモデルでシルバーとゴールドを用意しており、銀はスターリングシルバー(92.5%以上の銀と、銅だけの合金)のみを、金は24kのメッキを施している。きっとそのためだが、シルバーは光を受けた瞬間の反射が強く鋭くて、ゴールドの色合いはとても濃密だ。

例えば黒い服と合わせると、その美しさはより際立つ。コントラストが強くなればなるほど、このブランドの個性は浮かび上がるのだ。オールブラックの街のオール ブルース。どうりでショップスタッフのユニフォームも黒い。

いまから15年前に、このブランドを弱冠20歳で立ち上げたのがジェイコブ・スカラッゲだ。若気の至りというにはあまりにも持続的に、思慮深いジュエリーのコレクションを形成してきた。彼に話を訊くために、ストックホルムのほぼ中央、ニブロ湾に臨む風光明媚なベイエリアへ足をのばした。

上:店舗内でひと際目を引くガラスの商品ケース。商品を見るために下ばかり向かないように、あえて目線よりも高い場所にも陳列するために考案された。下:クロスさせたようなデザインのミラーは、着用して近づけばパーソナルな空間になり、ジュエリーのフィッティングルームとしても機能する。PHOTOGRAPH: ALFRED JOHANSSON

──まずはこの美しいストアについて教えてください。

ジェイコブ・スカラッゲ(以下:J.S) ありがとう。空間のデザイン、大きなガラスのケース、ミラーの形状とサイズ。当然ですが、わたしたちの理想が反映されています。

わたし自身、長年ホールセールビジネスをしてきたので、顧客にどのようにブランドとかかわってほしいか、多くのアイデアがありました。予想外だったのは、通りに面したガラス窓から、冬になると太陽光が真っすぐ美しく入ってくることくらいですね(笑)。

──20歳という年齢は、ブランドを経営するには若過ぎるようにも感じます。なぜそれを決断できたのでしょう?

J.S なんというか、それをするのが自然なことに思えたんです。もともと十代のころから、身に着けるものとしてジュエリーにはとても興味がありました。けれど結局、気に入ったブランドを見つけることはできなかった。その代わりにわたしがしたのは、ブランドやアイテムについて想像していくことでした。とても自発的にね。

いまにして思えば、わたしたちはいい意味で世間知らずでした。好奇心がとても強く、何事もまずは自分でやってみたかったし、学びたかったのだと思います。ここに至るまでにはたくさんの失敗もあった。しかしそれこそが人を成長させるものでしょう?

──経験は最良の教師という格言もありますしね。

J.S ジュエリーやデザイン、ファッションの分野で専門的な教育を受けていないことは、物事を違った視点から捉えることを可能とさせてくれたと思います。自分なりの視点をもつことは重要なことです。

──その「自分なりの視点」は、どのようにオール ブルースのものづくりに反映されていますか?

J.S できる限りシンプルで直感的であることを心がけています。そのうえで、わたしたちにはくっきりと目指している姿があります。それはあくまで控えめで、着る人のスタイルを引き立てること。バランスを崩したり、固有のスタイルを追い抜くようなものではいけない。

ジュエリーはバランスが重要なのです。それをよく表していると思うのは、太いチェーンやスタッズを印象付けるアイテムです。洗練されたパンクなスタイルを感じさせるものであり、オール ブルースの野心を表しています。

シルバーのラウクリングはスウェーデンのゴットランド島で見つかった岩石層からインスピレーションを得たもの。デザインを検証するために3Dプリンターでいくつものサンプルを出力し、そのなかからジェイコブが選び出したひとつをマスターとした。もちろん実際のリングは職人たちの手彫り。PHOTOGRAPH: ALFRED JOHANSSON

オール ブルースはチェーンネックレスのバリエーションが豊富。ゴールドのダブルチェーンネックレス(1)は、ウェイトの異なるチェーンを1本と2本で組み合わせたデザインが特徴だ。ゴールドのイヤーカフチェーンブレスレット(2)。どちらも24kのプレート(メッキ)加工を施している。イヤーカフのデザインモチーフは折れ曲がったストローだ。商品を包むパッケージ(3)もスウェーデンでつくられている。そのまま収納ケースとしても使用できる。PHOTOGRAPH: ALFRED JOHANSSON

──あなたたちの理想や野心を表現するために、新しいデジタルテクノロジーは役に立つでしょうか?

J.S 3Dプリントを活用することはあります。ベースとなるサンプルをつくり出すための初期の過程においてね。CADでデザインし、VAXの3Dプリントによっていくつかのサンプルをつくる。わたしはそこからひとつを選び出します。その型を取り、銀で鋳造すると、なぜかクラッシックなアイテムのように仕上がります。AIはどの過程においても組み込まれていません。

──伝統的なクラフツマンシップについてはどう感じていますか?

J.S 金細工というストックホルムの遺産を、いまのものづくりに継承できるのは素晴らしいことです。郊外の3世代続く家族経営の会社と協力し、この事業を成長させてきました。ものづくりの工程において妥協をしないと決めたとき、伝統に根差した職人の存在は大きな助けになります。

それに素材となるリサイクル金属は、金細工職人との確かな関係があったからこそ、調達することができるようにもなりました。いまではわたしたちのDNAとなっています。

──そのような経緯でサステナブルなイノベーションが生まれるのは興味深いです。オール ブルースのような繊細でインディペンデントなブランドだからこそ、可能なのではないですか?

J.S イエスと断言できるかは、今後にもかかってくるはずです。もしわたしたちがこれからもずっと良質なアイテムをつくり、顧客に長く愛されることを大切にできているのであれば、その可能性をもっと深く掘り下げて考える価値がより生まれてくるでしょう。

改めて考える。ジュエリーとは誰のためにあるのだろうか。かつては権威や所属を示すためのものとして用いられた。あるいはいまもそうかもしれない。SNSを眺めればわかる通り、自己を顕示する欲から、人はなかなか抜け出せそうもない。

しかし、オール ブルースのジュエリーとその背後にある思考には、飾り立てるというような動機は見当たらない。例えば黒い服に繊細に浮かび上がる、モダンさや美しいコントラストはただただ着る人のためだけにある。

PHOTOGRAPH: NOAH AGEMO

ALL BLUES

オール ブルース|2009年、ジェイコブ・スカラッゲが友人とともにストックホルムに設立。当初はメンズジュエリーがラインナップの中心だったが、しばらく後よりジェンダーレスなコレクションとなった。クリエイティブ・ディレクションやデザインをジェイコブが行ない、ストックホルム郊外の彫金職人のもとでハンドメイドされている。ファッションのシーズンには縛られず、不定期に新作を発表している。https://www.allblues.se Instagram

PHOTOGRAPH: ALFRED JOHANSSON
PHOTOGRAPH: ALFRED JOHANSSON

※雑誌『WIRED』日本版 VOL.52 特集「FASHION FUTURE AH!」より転載。
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