テスラが「サイバートラック」をリコール、あまりに危険な不具合の中身

テスラが電動ピックアップトラック「Cybertruck(サイバートラック)」について約4,000台のリコールを発表した。アクセルペダルの不具合で車両が加速してしまう危険性があるといい、逆風に晒されているテスラにとって新たな“黒星”となっている。
A Tesla Cybertruck driving along a highway
Photograph: Kyle Grillot/Getty Images

テスラの電動ピックアップトラック「Cybertruck(サイバートラック)」は、いろいろな意味で冷ややかな目で見られてきた。パネル間の隙間が広くてプロがつくったようには思えない、さびやすい、人間工学に基づいたチーズおろし器のように見える──などと言われてきたのだ。

ところが今度は非常に重大な欠陥が発生し、約4,000台の車両がリコールされる事態となっている。昨年11月13日から今年4月4日までに生産されたサイバートラック3,878台について、米国の運輸省道路交通安全局(NHTSA)がリコールを発表したのだ。

問題が生じたのはアクセルペダルで、パッドが外れて、ペダルが上部のトリムの部分に挟まれる恐れがあるという。当然のことながら、これは非常に重大である。

NHTSAのリコール通知には、「アクセルペダルのパッドがペダル上部の内装のトリム部分に挟まることで、ペダルの性能と操作に影響が生じ、衝突のリスクが高まる可能性がある」と記載されている。

この通知内容は、4月中旬にソーシャルメディアを席巻した事件を裏付けるものだ。サイバートラックの所有者が、まさにこの問題を示していると思われる動画をTikTokにアップしたのである。

「運転中にこれがずり上がってくるんです」と投稿者は言い、外れたアクセルペダルのパッドで再現してみせた。「これがずり上がってペダルに引っかかったまま、アクセルが100%完全に踏み込まれたままになったんです」

サイバートラックの所有者にとって不幸中の幸いだったことは、NHTSAも指摘しているように、ブレーキがアクセルより優先されることだった。トヨタ自動車が2010年に「意図しない加速」に関する苦情を数千件受けて数百万台をリコールしたとき、ブレーキ・オーバーライド・システム(ブレーキがアクセルより優先されるシステム)を義務づける規制をNHTSAが提案したのである。元NHTSA長官代理のデヴィッド・フリードマンによると、この提案は最終的に撤回されたが、業界はおおむね合意の意向を示していたという。

「トヨタの“ペダル固定問題”から多くの教訓が得られたことに感謝しなければなりません」と、フリードマンは言う。「もっとひどい事態になっていた可能性もあるのですから」

とはいえ、たとえブレーキ・オーバーライドのシステムが搭載されていても、7,000ポンド(約3,175kg)近い電気自動車(EV)が予期せず全速力で走行し始めた瞬間に、大きな問題が生じないようにすべてのドライバーが冷静かつ適切な修正行動をとれるとは限らないだろう。

問題が起きた理由

テスラが最初のサイバートラックを生産したのは、2023年7月のことだ。NHTSAによると、量産に至るまでのどこかの過程において、テスラは組み立てラインで“せっけん”を新たに使うようになったという。その理由とは、アクセルペダルのパッドをペダルに取り付けやすくするためだったようだ。

ところが、そのせいで残念ながらパッドが外れやすくなってしまった。NHTSAのリコール通知には、「残留した潤滑剤によりパッドがペダルから外れやすくなった」と記載されている。

NHTSAによると、サイバートラックの顧客のひとりが3月31日にこの問題を報告した。それから2日後、テスラのエンジニアが問題の車両のデータログを使用し、アクセルが完全に踏み込まれていたこと、ブレーキがサイバートラックを停止させたことの両方を確認した。

さらに4月3日には、別の顧客からも通知が届いた。テスラは1週間以内に最初の事故内容を確認する画像を受け取り、独自の再現テストを実施した。そして4月12日に自主回収を開始したのである。そこに選択の余地はなかった。「法律では、問題を把握したときか、把握すべきだったときから数日以内のリコールが義務づけられています」と、フリードマンは説明する。

一連の動きの時系列は、テスラが今週初めにサイバートラックの納車を中断したという以前の報道と一致している。テスラの最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスクは、4月17日の遅い時間に、Xへの投稿で今回の問題を認めたようだ。

「問題による負傷や事故は発生していません」と、マスクは投稿している。「わたしたちはただ、非常に慎重に行動しているだけです」。なお、テスラはコメントを控えている。

「テスラは無事に地球に戻ってきました」と、かつて日産自動車の最高執行責任者(COO)やアストンマーティン・ラゴンダのCEOを歴任し、自動車業界で40年以上の経験をもつアンディ・パーマーは言う。「サイバートラックのリコールは、部品や工程の変更管理がアクセルペダルの不具合を引き起こした典型的な例です。こうしたことは新モデルの発売を繰り返す自動車メーカーにはつきものなのです」

パーマーによると、伝統的な自動車メーカーはこうしたインシデント(重大な事案)を避けるために、新モデルを導入する際に厳格な審査プロセスを設けているという。テスラには大いに改善の余地がありそうだ。

苦難が続くテスラの新たな“黒星”

今回のインシデントは、苦境に立たされるサイバートラック、そしてテスラ自身にとって新たな“黒星”となった。中国との競争が激化し、自動運転タクシーの全面推進を優先して低価格なEVの開発計画を撤回したとみられることから、テスラの株価は今年に入って急落している。

テスラは昨年12月、自動運転を含む運転支援機能「オートパイロット」のソフトウェアの欠陥を修正するために、ほぼ全車両のリコールを余儀なくされた。マスクの報酬パッケージをめぐる株主争議やXの苦難も重なっており、テスラにとっては業務に専念できない状態が続いている。

NHTSAによると、テスラは4月17日までに新たなアクセルペダルの部品を導入したという。これにより、サイバートラックの納車も再開されたようだ。

ただし、“せっけん”の問題を修正するソフトウェアは存在しない。このためサイバートラックの所有者たちは、無償修理を受けるために車両をサービスセンターに持ちこむ必要がある。

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

※『WIRED』によるテスラの関連記事はこちら


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