アップルが部品交換ルールを変更、iPhoneは少しだけ修理しやすくなった

米国の一部の州での規制を受け、アップルはiPhoneの修理に関する制度をこのほど見直した。今年の秋以降、特定のモデルを対象に、アップル製の中古部品を使ってiPhoneを修理できるようになる。ただし、これは最低限の対応でしかないと「修理する権利」の支持者たちは指摘している。
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Photograph: PETER PARKS/Getty Images

アップルiPhoneの部品交換に関する長年の厳格なルールを変え、中古の部品を使ってiPhoneを少しだけ修理しやすくすることを発表した。

この変更は2024年4月11日に発表されたもので、今年の秋ごろから「特定の」iPhoneモデルに適応される(『ワシントンポスト』の記事によるとiPhone15以降のモデルが対象)。これは「パーツペアリング」を禁止する州が増えていることを受けての変更だった。パーツペアリングとは修理の際に、メーカーのソフトウェアによる交換部品の認証と承認が必要な仕組みのことだ。この慣行は長年にわたり、サードパーティーの修理店や自分で端末を修理したい人たち、そしてこれを禁止したい米国中の立法者を悩ませてきた。

パーツペアリングは端末のセキュリティと機能性を保つために必要だと、アップルはかねてより主張している。ほかの部品を使用すると、iPhoneの機能が正常に動作しなくなる可能性がある。例えば、iPhoneの画面が割れた場合、Face IDが機能しなくなることがあるのだ。とはいえ、今回発表された変更が適用されると、iPhoneの中古部品でも「アップル製の新しい正規品と同じように」機能するようになると同社は伝えている。

他社製の部品は対象外

しかし、この変更はアフターマーケット(ほかの企業が提供する修理用の部品市場)の部品には適用されず、「修理する権利」を支持する人たちを落胆させている。「今回の変更は、こうした慣行を全面的に禁止したい立法者の注意をそらすための、中途半端な約束と必要以上に複雑な施策です」と、テック製品向けの修理用ツールやキットを販売するiFixitの最高経営責任者(CEO)、カイル・ウィエンスは指摘する。

iFixitがiPhone15で試したところ、部品を交換すると多くの場合、画面に警告が表示されたり、機能が故障したりする。例えば、インカメラを交換すると、Face IDと明るさの自動調整機能が正常に動作しなくなったのだ。変更を実施してからは、正規品の部品をデバイスに組み込むと、その端末に適応して使えるようになるとアップルは説明している。

州の規制がアップルの変化を後押し

オレゴン州は先月、米国で初めてパーツペアリングを禁止する「修理する権利」に関する法律を制定し、2025年1月から施行される予定だ。コロラド州の立法者もパーツペアリングを禁止する法案を検討しており、それに向けた公聴会が4月11日に州議会で開催された。これについてアップルにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

「はっきり言っておきますが、この変更は州の立法者がこの慣行に反対したから実施されたものです」と、非営利団体のPublic Interest Research Groupの「修理する権利」キャンペーンのシニアディレクターを務めるネイサン・プロクターは話す。「州の立法者が『こうした慣行は認められない』と言わない限り、こうした変更は実施されないのです」

また、アップルは22年からユーザーが自分でデバイスを修理できるようマニュアルとツールの提供を開始している。カリフォルニア州が昨年、メーカーに対してこうした資料を提供することを義務付ける法律を制定した後、アップルはこの施策をさらに拡大させた。

最低限の変更

今回の変更は、どの部品を対象としたものかとアップルに質問したが、回答は得られていない。同社は過去2年間、Face IDやTouch IDのような部品を再利用できるよう取り組んできたと話している。今後発売されるiPhoneモデルでは、中古のセンサーも修理に使えるようになるという。

また、アップルはiPhoneを盗もうとする人から狙われにくくするためのアップデートも発表している。これは、盗まれたり失くしたりしたと報告されたiPhoneの部品をロックし、別のiPhoneに使われることを制限するものだ。また、設定からスマートフォンの部品が新品か、それとも中古の正規品が使われているかを確認できるようにもなる。

これらの変更は、アップルが長年にわたって貫いてきたサードパーティーによる修理に対する姿勢の大幅な方向転換を示している。しかし、この対応は革新的なものではなく、最低限のものでしかないと、「修理する権利」を求める人たちは考えている。「そもそもアップルの慣行は非倫理的で、支持できないものでした」と、Public Interest Research Groupのプロクターは話す。「(パーツペアリングが)禁止され始めたことはうれしく思いますが、特定のメーカーのいくつかのモデルを制限するのではなく、どのメーカーのどのデバイスに対してもこうしたことを禁止できる法律が必要です。

(Originally published on wired.com, translated by Nozomi Okuma)

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