シンプルさを究めた“退屈な携帯電話”、ハイネケンなどが異色のコラボで投入する狙い

機能を徹底的にそぎ落とした“退屈な携帯電話”が登場した。その名も「The Boring Phone」は、レトロな折り畳み式で透明のデザインが特徴。ハイネケンやファッションブランドのBodegaとの異色のコラボで誕生したが、そこにはある狙いが隠されている。
Left Hand holding semiclear flip phone. Right Closed flip phone showing the exterior screen beside an open flip phone...
Courtesy of HMD

スマートフォンの画面を凝視しながら過ごす時間は、ますます増える一方である。こうしたなかテック企業は過去数年にわたり、自分たちが生み出したこの問題を緩和しようと努めてきた。

例えばアップルとグーグルはモバイルOSにおいて、画面を見つめる時間を抑制するためのツールを投入している。補助的な携帯電話の役割を果たすように設計されたスマートフォン「Light Phone」のようなデバイスは機能が限られており、社交的な集まりの場でInstagramをじっと見なくて済むので一定の人気を得ている。

この種のデジタルデトックスのような考えは、人工知能(AI)を搭載したガジェットが流行している背景にもあるものだ。こうしたガジェットのひとつであるHumaneの「Ai Pin」は、スマートフォンならではのタスクの一部を、画面のないインターフェイスで音声を使って操作できると謳っている。

こうしたトレンドに乗った最新の製品が、「ミラノデザインウィーク」に先駆けて発表された「The Boring Phone」(退屈な電話機)だ。開発元のHuman Mobile Devices(HMD)は、ノキアとのライセンス提携によって2017年から「NOKIA」ブランドの携帯電話を手がけている企業と言ったほうが有名だろう。The Boring Phoneはキュートで、透明でレトロな見た目をしている。だが、購入できる製品ではない。

The Boring Phoneはすべてがレトロな雰囲気。ハイネケンの広告も解像度が低い画像を使っている。

Courtesy of HMD

フィンランド企業であるHMDは2024年2月に開催された世界最大のモバイル機器見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」で、自社ブランドとしての「Human Mobile Devices(HMD)」を確立すべく注力していく方針を発表した。自社ブランドをもたないホワイトレーベルの携帯電話メーカーとしてノキア以外のブランドとも手を組むことで、事業範囲を広げるという。

このときの大きな発表は、マテルとの提携によるバービーの折り畳み携帯電話(今夏発売予定)だった。このバービーフォンの詳細については現時点で新しい情報はないが、The Boring Phoneはハイネケン(あのビールのブランドだ)とファッションブランドのBodegaとのコラボレーションから生まれた

このフィーチャーフォン(通称“ダムフォン”=dumb phoneと呼ばれる)は、メールと通話しかできない。カメラやヘッドフォンジャック、充電用のマイクロUSBポートは用意されており、デュアルSIMと4G接続に対応している。バッテリーは待機状態で1週間もつが、アプリはレトロゲーム「Snake」しかない。そう、このガジェットはSnakeをプレイできるのだ。

デザインを手がけたBodegaは、Z世代と共有するインスピレーションとして「ニュートロ」(ニュー&レトロ)の台頭に焦点を当て、1980~90年代に流行したガジェットを現代風にアレンジした。こうして、ハイネケンとの提携にちなんだホログラムのステッカーとグリーンのアクセントが施された、透明な折り畳み携帯電話が誕生したのである。

正直なところ、この記事を書いている理由の半分はこの携帯電話の見た目である。なんとも素敵ではないか。

Courtesy of HMD

キャッチコピーはシンプルである。「人々と交流したりアウトドアを楽しんだりするときは、スマートフォンを家に置き、このデバイスをもって出かけよう」というものだ。

会話の間が空いたときにTikTokを開いてしまう可能性をなくすことで、おそらく際限なく画面をスクロールする習慣が減ることだろう。ハイネケンとの提携には戸惑うかもしれないが、このブランドはあなたが「スマートフォンの画面からの解放」という新しく見つけた自由を楽しみながら、友人と一緒に(もちろん)ビールも楽しんでほしいと考えているのだ。

HMDは、これから発売されるバービーフォンも同じように位置づけている。つまり、「つながりを強化し、デジタルの雑音や妨害のなかでいくらかの静けさを可能にする」ことをコンセプトとするのだ。

このバービーフォンは、発売されたら購入できる。HMDはフィーチャーフォンのトップメーカーのひとつであり、2022年には米国でHMDのフィーチャーフォンが売上を伸ばしたこともある。

Courtesy of HMD

これまでHMDはスマートフォンの分野であまり存在感を発揮できていない。このため比較的シンプルで低価格なフィーチャーフォンに引き続き焦点を絞る戦略は理にかなっている。

とはいえ、今年はHMDブランドの新しいAndroidスマートフォンがいくつか発表されることも、まだ期待されている。噂によると、その多くはユーザーによる修理が可能になるという。ユーザーによる修理が可能という特徴も、このブランドが力を入れる大きなポイントだ。さらにモジュラー式のデバイス「HMD Fusion」も、今年後半に登場する予定となっている。

HMDによると、The Boring Phoneは4月18日(現地時間)のミラノデザインウィークで初めて披露される。HMDはスポーツ競技やさまざまな消費者向けのイベントを通じて、この電話を「世界中の人々」に配布する考えだ。

この取り組みは最初にイタリアで開始されるが、今年後半には英国など他の市場にも拡大される。生産台数は計5,000台限定の予定だ。幸運を祈る!

(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)

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