ボストン・ダイナミクスのヒト型ロボットが大幅に進化、そのありえない動きから見えてきたこと(動画あり)

ボストン・ダイナミクスのヒト型ロボット「Atlas(アトラス)」が全面刷新された。リングライトのような“顔”をもつ新型ロボットは関節が自在に回転・旋回し、その動きは人間ではありえないようなものだ。
ボストン・ダイナミクスのヒト型ロボットが大幅に進化、そのありえない動きから見えてきたこと(動画あり)
Photograph: BOSTON DYNAMICS

ロボットは死なず、ただ消え去るのみ(そして、おそらく少しさびるのだ)──。ロボットの開発で知られるボストン・ダイナミクスが、10年以上前に登場したヒト型ロボット「HD Atlas(HDアトラス)」に別れを告げ、すぐにその“代替”となる新型を発表した。

アトラスは長年にわたり、かわいらしいダンスやパルクールを披露してくれた。そして、いつか人類滅亡の日が訪れるのではないかと、わたしたちを怖がらせてくれたのだ。

しかし、当然のことながら“ロボカリプス”(ロボット黙示録=ロボットによる人類征服)が訪れることはなかった。アトラスは箱から落ちたり、テーブルから跳ねたり、芝生の丘を転げ落ちたり、映画『ダーティ・ダンシング』の曲に合わせて踊ったりするなど、さらにかわいくなっていったのである。

そんなアトラスの“電源オフ”を前に、引退を告げる動画に続いて約40秒のショートムービーが4月17日(米国時間)に公開された。全面刷新されたアトラスの姿だ。

Photograph: BOSTON DYNAMICS

新型アトラスが見せた驚異の動き

新しい寝汗をかく準備はいいだろうか。この新型アトラスはCGのように“ぬるぬる”とスムーズに動くが、決してCGなどではないのだ。

現在は韓国の現代自動車(ヒョンデ)傘下となったボストン・ダイナミクスは、この新型について現時点では詳細をほとんど明らかにしていない。最高経営責任者(CEO)のロバート・プレイターは『IEEE Spectrum』の取材に対し、この新型が「 ほとんどの関節が人間より強く、最高のアスリートさえも上回ります。そして、人間を上回る可動域をもっています」と語っている。なんてこった。

プレイターによると、旧型アトラスで使われていた時代遅れの油圧機構は廃止され、電動のアクチュエーターに置き換えられたという。また、旧型は人間のようでもカクカクとぎこちない動きだったが、新型は薄気味悪いカニと軟体動物のような動きをする曲芸師が合体したように、自在に旋回したり回転したりする。

この超強力で全地形対応で二足歩行のヒト型ロボットが、階段を駆け上がり、バク転をして、即座に姿勢を正してわたしたちの首をへし折るようにプログラムされているかもしれない──といった心配をする必要などない。たとえ、1984年の映画『ターミネーター』でアーノルド・シュワルツェネッガーが演じた殺人サイボーグに茫然としたことがなくてもだ(とはいえ、レーザー銃は絶対に持たせてはならない)。

旧型アトラスに関していえば、あのバズった動画のように荒れた道のりで姿勢を保ち続けていたのは巧みな編集のおかげだった──と、自分たちに言い聞かせることはできた。実際に引退の動画で見せていた“失敗”は、その直感が正しかったことを証明している。

ところが今回の新型アトラスの動画は、ロボットによる世界征服という抑えられていた恐怖をよみがえらせるかもしれない。新型の怖いところは、顔がリングライトになっているから、というだけではない(いったい誰が2024年の“予想的中”として「ロボット・ユーチューバー」なんて挙げたのだろうか)。

まずは自動車工場での作業に従事?

もしあなたがアマゾンの倉庫の作業員なら、また別の恐怖を感じることだろう。というのも新型アトラスは、そのマットグレーのボディに取り付けられた3本指の手が1本あれば、同じような仕事をこなせるからだ。

しかし、より可能性が高いのは、ボストン・ダイナミクスを2020年に10億ドルで買収したヒョンデが、新型アトラスを自社の自動車工場で働かせることだろう。ボストン・ダイナミクスは新型アトラスの発表に際して、「これからの旅路はヒョンデから始まる」とコメントしている

改めて強調するが、現時点では詳細については何ら明らかにされていない。だが、こうした推測はできる。新型アトラスはヒョンデの工場で、退屈な繰り返しの伴う作業に従事することになるのだろう。例えば、レーザー溶接といった工程だ(繰り返しになるが、ロボットをレーザーに近づけてはならない)。

ヒト型ロボットを現場の作業員として活用しようと考えているのは、ヒョンデだけではない。カナダのSanctuary AIは4月11日、自動車部品や受託生産で知られるオーストリアのマグナ・インターナショナルにヒト型ロボットを納入すると発表している。マグナはメルセデス・ベンツやジャガー、BMWの自動車の組み立てなどで知られる世界的な企業で、これはテスラが開発を進めているヒト型ロボット「Optimus(オプティマス)」に先行する動きだ。

また、ロボット開発を手がけるカリフォルニアのスタートアップのFigureは今年2月、NVIDIAやマイクロソフト、アマゾンなどから計6億7,500万ドル(約100億円)を調達している。そしてOpenAIと共同で、ヒト型ロボット用の生成AIを開発するという。

汎用のヒト型ロボットが、その場で“学習”しながら動作する──。そこに何の問題があるというのだろうか?

(Originally published on wired.com, translated by Daisuke Takimoto)

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